他院からの紹介の患者さんの根管治療。

主訴は

右下の奥から2番目が冷たいものにしみる。治療が必要だろうと思う…

であった。

歯内療法学的検査が行われた。

#29 NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#30 +4/7, Perc.(±:違和感), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#31+30/1分以上, Perc.(±:違和感),Palp.(-),BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

当初はどうもなかった#31がCold testを当て終わり患者さんと話をしていた時にその手がいきなり上がった。

最初はどうもなかったが、タイムラグでいきなり手が上がったのである。そしてその痛みは患者さんに治療の内容を話している間も延々と続いていた。その後治療で伝達麻酔をしたのちに消失したのである。

これだけで表現すれば明らかにLingering painがあるという状態である。

歯髄炎の状態で抜髄は避けられないだろう。

私自身もかつて似たようなことがあったからだ。

痛みがある中、PAを撮影した。

PAは以下になる。

病名は以下になる。

Pulp Dx: Symptomatic Irreversible Pulpitis

Periapical Dx: Normal apical tissues

Recommended Tx: RCT+Core build up

紹介してくれた先生もこの日、見学に来ていたので術前にその先生と色々と予想をしていた。

CBCTも持参してくれていたが、正直それをみても何も予想ができない。

解剖の形態はわかるがそれほど根管治療で差し迫った治療が必要ないからだ。

術前は#30では?と我々は予想していたが、露髄した+検査でかなり長いLingering Painが発現した#31の方がもっと怪しい。

そもそも世間の多くの人は露髄しても歯髄が保存できると思っているようである。

この紹介者の希望も歯髄は何とか残せないのか?というものであったが残念ながらこれは難しい。

詳しくは、今後開催予定の

Dental Pulp(1日セミナー)

で講演するが、

この患者さんの年齢では歯髄を残すとデメリットの方が大きいだろう、

これが歯髄保存療法をやめた方がいいと思う、私の最大の理由である。

詳しくは今週末のBasic Course 2021 第11回でも解説する。

または今後開催のDental Pulp(1日セミナー)でそれは解説する予定である。

ではどのようなデメリットを生じるか?といえば以下のような可能性がある。

成人におけるFull Pulpotomyの欠点

1. 根完成しているので根尖病変の有無しかレントゲンで確認できない

2. 断髄することでAδ繊維を取り除くので、術後にSensibility testができない(歯髄の生死不明)

3. 失活歯髄でも細菌感染がなければ根尖病変はできないので、 Survival Rateしか算出できない

4. 修復物の質が甘いと、根管の石灰化+根尖病変の発生が生じ、外科的歯内療法を余儀なくされる⇨USC時代の症例〜#30 Initial RCTも全く穿通できず…どうやって根尖病変をマネージメントするのか?

なぜこのような欠点が多いのか?といえば、以下の本を読めばわかるが難解で非常に理解するのが難しい。

昔は上の本のように和訳されていたが(ちなみに日本名の教書は”歯髄”…そのままだ。)、もう誰もそれを望まない状況になってしまった。

こういう本が昔はYahoo!オークションとかにあったが今は見る影もないだろう。

英語にアレルギーがないのであれば、以下のような本を読むことを薦める。

我々, 米国歯内療法専門医が大学院時代に米国で読まされた有名な本である、

Dental Pulp

である。

上記の”歯髄”という本はこのDental Pulpの和訳バージョンである。

そこに書いてる事実は、

歯髄の性質・回復力には年齢差がある

という事実である。

若い歯髄と年配の方の歯髄の量や質・歯髄に対する血流の量

は全く違う。

年配者はこのように枯れ木である。

枯れ木に花は咲かないのである。

いや、年配者でも成功しているという論文もあったと聞いたけど??

というあなた。

はい。

そういうのはあるのかもしれない。

しかし、その論文にあった高齢者の歯髄は年齢の割にはでかい=若い歯髄が存在していた可能性がある。

ということで成人で歯髄を残存させることはほぼ無理ゲーである。

これを知っていれば適切な歯科医療が行えるはずだが、

歯髄を取ると枯れ木のようになるとか、

割れやすくなるとか、

寿命が縮むとか、

そうした迷信を信じる人には響かないだろう。

このように歯髄を温存させるか否かでも、

その歯科医師がいままでどういう学習をしてきたか?

が背景に治療計画そのものを変えていく可能性が高い。

歯髄温存を期待するのであれば、まずはDental Pulpを読むことを推奨する。

そこに書いてあることはあなたの常識と一致するか?合わないか?

合わないのであれば、歯内療法を変えていく必要がるだろう。

ということで患者さんは根管治療に同意し当日その治療へ移行した。

露髄すると髄腔内は以下のような状態であった。

露髄すると湧き出る暗赤色の出血が私の診断が正しかったことを示している。

このようにして自分の診断と事実に相違がないか確かめてみることが診断を研ぎ澄ましていく上での一つの方法(近道)と言えるのである。

治療内容は以下になった。

C+10で穿通した。

ということは0.5mm上のサイズは#12である。

ということはHyFlex EDMの#10.05を使用する意味はあまりないだろう。

なぜか?既にC+ Fileの#10.04で穿通しているからだ。

うそだろ?と思うのであれば、Ni-Ti Fileを回転させずに作業長までファイルが入るかどうか?試してみればいい。

ファイルが入るのであれば、そのファイルは拡大には不必要ということになる。

ということで、

HyFlex EDMの

#20.05⇨#25.V⇨#40.04⇨#50.03(しかも途中までしか形成できていない)で根管形成は終了した。

ということはMAFは#40.04である。

Gutta Percha Pointは#40.04か#35.04であろう。

それらはポイント試適して決まる。

ポイント試適した。#40.04を使用している。

このように根尖部が危うくなるのは、フィルムフォルダーの使い方に問題があるからである。

フィルムフォルダーを以下のように注意して使用すればラバーダムを使用していても綺麗に根尖部を映すことができる。

詳細は今後開催のPAセミナーでお伝えする予定である。

PA撮影に革命?が起きる可能性がある。

 

ということでPAを撮影して問題ないと判断し、根管充填した。

近心はややアンダーになったかもしれないが、側枝やApical Foramenからシーラーパフは確認できた。

Gutta Percha Pointのサイズを#35.04にすればMとDは合流したかもしれない。が、合流しないから予後が悪くなるという研究を私は知らない。

Follow Tube Theoryが否定されていることからもそれは明らかなはずである。

ということで、この状況でも予後に影響は及ぼさないと判断し支台築造して咬合調整して終了した。

術後は、かかりつけ医はインレーを選択されるそうだ。

私にはそこに対してああだこうだといえない。

今までの研究は抜去歯牙1本に対するもので口腔内での生存率に言及した文献はなかったが、ここ最近では以下のようにレジン充填でも長く持つという論文(in vivo)もあるからだ。

Suksaphar 2018 Survival Rates from Fracture of Endodontically Treated Premolars Restored with Full-coverage Crowns or Direct Resin Composite Restorations: A Retrospective Study

ということでこの手の話の答えは誰にもわからない。

一本の歯ではなく、口腔内全体で歯牙の評価をしなければいけないからだ。

ということで紹介患者さんの歯内療法処置は終了した。

次回は、#30の歯髄検査と必要であればその部位の歯内療法を行う予定である。

またご報告したい。