週末の日曜日は博多駅近郊会議室でBasic Course 2021第11回が行われた。

テーマは前回できなかった生活歯髄療法。

GPの先生が好きな治療である。

しかし、私が大学院にいるときはほとんど行わない治療であった。

それにはいくつか理由があるが、やはりこれは受けた教育の違いと言わざるを得ないだろう。

私の教育のバックグラウンドになっているものは、Dental Pulpである。

USCで若年者の歯髄と年長者に歯髄の違いについて学んだ機会は、今考えると貴重なものであった。

枯れ木に花は咲かないとはよく言ったものである。

その通りである。

ということで、過度な期待を抱かないように治療しないといけない。

生活歯髄療法を以下のように分類し、説明していった。

1. Indirect Pulp Capping

Indirect Pulp Cappingの適応症を捉えなければならない。

さもなくば、以下の小児の患者のようにひどい自発痛を抱えた状況になるだろう…

当歯科医院は子供の患者も多く来る。

歯内療法専門医は子供の治療もするのである。

子供は見れません、では話にならない。

カリエスをどのように除去するか?は昔から議論が分かれるところである。

全て取る人、露髄しないように残す人、全く除去もしない人。様々である。

そこに答えはあるのか?といえば何もないのが実情である。

鍵は臨床症状の有無と年齢である。

年齢が若いというのはあらゆる意味で有利である。

年齢は要check事項である。

枯れ木に花は咲かないのである。

科学を超えた年齢というファクターが治療の予後を左右するのだ。

私の脳血管を見ているようである・・・。。。

以下のような症例で検討してみよう。

永久歯の裂孔が黒色している場合、あなたはそこにシーラントするだろうか?

それが臨床にもたらす結果は何であっただろうか?

また虫歯をのこしたまま充填すると起こる不都合は何であっただろうか?

もう一度、PDFを繰り返し見てみよう。

2. Direct Pulp Capping

露髄した歯髄を直接薬で絆創膏を貼る行為がDirect Pulp Cappingである。

最大の弱点は以下の図で表されている通りである。

この図が意味するところは何だっただろうか?

あなたは直接歯髄を保護できると断言できるだろうか?

また止血はどうやって行うだろうか?

論文をレビューすると以下のようになった。

以下のLi 2015 Direct Pulp Capping with Calcium Hydroxide or Mineral Trioxide Aggregate: A Meta-analysisはClassic literatureの中に入れられている有名な論文である。

以上のInclusion Criteriaに合致した論文の中でどのように止血が行われているか?レビューしてみた。

すると、

滅菌綿球+生食・・・Accorinte 2008, Accorinte 2008, Aeinehchi 2003, Iwamoto 2006, Min 2008, Nair 2008, Parolia 2008, Swarup 2014

ヒポクロ・・・Cho 2013, Eskandarizadeh 2011, Hilton 2013

0.12% CHX・・・Mente 2006, Mente 2014

ということで生食で止血しているケースが圧倒的に多いのがわかる。

なぜか?と言えば、止血できるのであればわざわざヒポクロのような材料を使用する必要がないからだ。

しかし実際は、世界的にも有名な某歯内療法専門医の動画での模様を見ていただいたように、

止血できているからMTAを置いたなどと言ってもほとんどできていない

ことが手に取るようにわかるだろう。

<2.5%ヒポクロで止血直後の画像>

<MTAセメント充填直前の状況>

ではなぜこのような強硬策が取られているのか?と言えば、この患者の年齢である。

以下のPAが術前のものである。

根未完成の#30でありその近心には乳歯も残存している。

容姿も見れば完全な子供だ。

部分断髄をしている。

治療後、歯根は完成した。

なぜ止血が甘いのにこの著者はMTAで充填することを強行したのか?といえば、頭の中に上記の若者の歯髄の森のような写真が頭の中にあったであろうことは容易に想像がつく。

しかしそれによって根尖部が閉鎖しているPAを出されてしまってはもう誰もこの治療が否定的側面を持つものであると弾劾できないであろう。

若いというのは歯髄保護に非常に有利なのである。

3. Pulpotomy(Full/Partial)

USC時代、私も小児の患者にPulpotomyをしていた。

Kids(小学生低学年の女児)の治療であった。

ヒポクロで止血しているので紫色に歯髄の表面が変色しているのがわかるだろう。

それから充填した。

半年経過をおくと以下のようになった。

根が完成している。

治療は成功したといえる。

さあこの治療の特徴は何だっただろうか?

以下の3つに分類される。

1. Emergency Pulpotomy

歯髄炎で歯が痛い患者が来た時にどのような薬剤を使用すれば痛みが取れるか?を研究した論文が以下にある。

さてどの材料を使用すると痛みが取れるだろうか?

薬剤の力は偉大だっただろうか?

この中であなたが今使用するとすればどのような薬剤だろうか?


2. Full Pulpotomy

Ful PulpotomyはUSCでおこなっていた。2015年のことである。あの少女も今は高校生くらいだろうか。時は流れていく。

半年で歯根が完成している。

さてこのような全部断髄に益はあっただろうか?

といえば、該当する論文が数本しかないという有様である。

そのうちの1本目。

Eghbal 2009  MTA pulpotomy of human permanent molars with irreversible pulpitis

成人(16~28歳;平均年齢23歳)で術前にIrreversible Pulpitisが疑われる歯を全部断髄している。

結果は以下になる。

ということで断髄は無敵の?治療かもしれない。

ただ患者の年齢が若いのが気になる。

では成人ではどうだろうか?

Taha 2018 Outcome of full pulpotomy using Biodentine in adult patients with symptoms indicative of irreversible pulpitis

平均年齢33歳のグループで術前に歯髄炎が疑われるグループに全部断髄を行っている。

が、論文を読み進めると

Haemostasis was achieved by the application of a pellet moistened with 2.5% NaOCl for 2 min with a dry pellet on top and repeated if required up to 6 min;

という1文に出あう。

このことが意味することは、止血ができたということである。

止血ができたのであれば、それはIrreversible Pulpitisとは呼べない。

術前の診断が間違いであったのだ。

では術前にどういう状態であったか?といえば、

Patients who had a molar tooth with a vital pulp (detected by clinical signs/symptoms) with a history of pain…indicative of symptomatic irreversible pulpitis according to AAE diagnostic terminology,…Pain indicative of irreversible pulpitis was defined as spontaneous pain or pain exacerbated by cold stimuli and lasting for a few seconds to several hours (interpreted as lingering pain) compared to control teeth.

術前には不可逆性歯髄炎が疑われており、自発痛やlingering painの既往もあったのである。

それが、止血できたので術前の診断は誤りであったということがわかる。

このように、術前の状態がどうであろうと、実際に治療をしてみて、止血ができたかどうか?というのが大事でこの手の治療の決め手になっているということがわかるだろう。

そう。常に実際にやってみないとわからないのである。


3. Cvek Pulpotomy(Partial Pulpotomy)

Cvek PulpotomyはCvekが1978年に小児(7~16歳)の外傷の歯に対して部分的断髄をおこなった治療のことを指す。

成功率は96%と高い。

しかし、外傷での部分断髄よりもう蝕よる部分断髄行為の方が臨床家にとっては興味が湧く部分である。

2本の論文を紹介した。

Barrieshi-Nusair 2006 A prospective clinical study of mineral trioxide aggregate for partial pulpotomy in cariously exposed permanent teeth

虫歯による露髄+小児(7.2 to 13.1 years with an average of 10 years)+Cvek Pulpotomyの予後を見ている。

とここまで書いてこの先を記載しなくても予後が予想できるようになったであろうか??

予想通りの結果である。

では、成人であればどうだろうか?

成人+虫歯+術前 歯髄炎+露髄+部分断髄の治療の成功率を求めた文献を調べてみた。

Taha 2017 Partial Pulpotomy in Mature Permanent Teeth with Clinical Signs Indicative of Irreversible Pulpitis: A Randomized Clinical Trial

患者の平均年齢は30歳で、術前にCold testを行うとsevereな自発痛(spontaneous lingering pain)があった患者を対象に治療している。

断髄して2.5% NaOClで止血している。(placing a cotton pellet soaked with 2.5% NaOCl over the pulpal wound for 2 to 3 minutes and repeated for another 2 to 3 minutes if required)

これでも止血できない症例は根管治療へ移行している。

その後止血できた27本はWhite ProRoot MTA で、残りの23本はDycalで修復している。

術後半年、1年後、2年後の予後を調べたこの論文の結果はどうなっただろうか

1年後 MTA 83% Dycal 55%

2年後 MTA 85% Dycal 43%

となり、Dycalと比べて予後が高いことが示唆される。

この研究から、

成人においても止血ができれば(というよりこの時点で診断が間違っていたということになる)、カリエスによるPartial PulpotomyはMTAを用いた場合、その2年予後は高い(85%)

ことがわかった。

ではなぜこのように高い成功率が得られる治療を我々、歯内療法専門医はしないのか?と言えば、

これらの治療の成功率よりも根管治療の成功率の方が高い

からである。

また生活歯髄療法は失敗すれば根管が石灰化してしまう。

以下のようになったら、目も当てられないだろう。

根管が石灰化する原因は、完全にはわかっていない。

が、外傷を起こしたり、脱臼して再植した歯や、

過剰な歯質の削除をおこなった歯に生じやすい

とされている。

The Dental Trauma Guideによれば、

When revascularization is successful, these teeth will show an accelerated deposition of hard tissue along the pulp canal walls.

血液循環が戻ったのちに石灰化が進むという。

歯髄全ての歯が石灰化するのに1年はかかるという。

外傷や過度な歯冠形成が石灰化の原因になるようだ。

歯髄を保存しようと歯冠形成した行為も十分に外傷と言えるだろう。

ということでまとめれば、このように面倒臭いことが後々起こる治療をあなたはやるのか?という問いである。

抜髄して根管治療すれば、成功率は90%以上もあるのにも関わらずだ。

失活歯が枯れ木のようにぽきんと折れるという事実もない。

神経を取っても歯が脆くならないことは多くの論文で証明されている。

また、あなたが歯髄を保存してその治療が失敗すれば、石灰化が起こり外科治療を余儀なくされる。

それは受け入れられることであろうか?

以下のような治療ができるだろうか?

いかがだったであろうか?

歯髄を残すことが必ずしも正義にならないということがわかっただろう。

しかし、私は抜髄を推奨しているのではない。

治療をどうするか?どうしたいか?は患者さんが決めるべきことである。

我々が恣意的にこうした治療をしましょうと誘導してはいけない。

ということでこの日の講義は終了した。

次回はいよいよ最終回である。

午前中に築造の話をして、午後は受講生の症例発表である。

次回まで頑張りましょう。

1日お疲れ様でした。