紹介患者さんの治療。

患者さんは

術前に強く歯髄保存を希望されていた。

そして既に前医で生活歯髄療法(MTAセメントによる直接覆髄)を行っていた。

直覆を行った理由は、

根管治療をしたくない。歯が脆くなるから

だという。

しかし成人の歯で神経を保存すると問題が出ることは以前のブログに記載したとおりだ。

Basic Course 2022 第10回〜Vital Pulp Therapy

成人のDirect Pulp Cappingの成功率は以下の通りである。

成功率が30%しかない。

そしてそれ以上に、いやこの治療の最大の問題は、

根管の石灰化が進む

ということである。

石灰化が進んで根尖病変ができれば…ApicoectomyかIntentional Replantationが濃厚になる。

それは患者さんも避けたかった。

ということで検査が行われた。


初診時検査(2022.5.20)

#13 Cold+8/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#14 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#14はCold testに無反応であった。

歯髄壊死しているのか?

初診時PA(2022.5.20)

既に石灰化が起こっているようである。

CTを撮影していた。

初診時CBCT(2022.5.20)

MB

MBには病変は見えないと思われる。

ここの髄角が張っていたことも露髄の原因なのであろう。

成人のDirect Pulp Cappingの成功率は低い

ことは前述したとおりである。

しかし幸運にも石灰化は起きていないようである。

なぜか?と言えば実はこの時、露髄したのが最近(初診のすこし前)だったからだ。

これなら根管のマネージメントが可能だ。

しかし時間が経過すると…石灰化が進行する。これは根管治療をやりにくくしてしまう。

病変ができれば…外科が決定的である。

そんなことをあなたはしたいだろうか?

私はやる方だが…自分はしたくない。

また追加情報であるが、この歯にはMB2がなさそうだ。

根管がMBの中央にあることからもそれがわかるだろう。

DB

DBには病変があるように見える。

そして…石灰化が進行しているようだ。

ここは注意が必要だろう。

横からの断層面でも石灰化の進行が見られる。

あまり良くない傾向だろう。

ここを制することができるかどうか?が鍵になる可能性が高い。

P

P根にも既に病変が見られている。

石灰化すれば…

MB, DBを切断して、Intentional ReplantationしてP根を落とすというヘビーな治療になる。

それは避けたい。

が、石灰化していないので攻略は容易そうだ。

ということで診断は以下になる。


#14

Pulp Dx: Symptomatic irreversible pulpitis

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: RCT

推奨される治療は生活歯髄療法ではなく、根管治療だ。

なぜか?は上の記事を参考にしていただきたい。

ということで根管治療が行われた。


RCT終了時(2022.7.5)

さてここから時間が半年経過した。

問題はないだろうか?

#14 RCT 6M recall(2023.1.14)

患者さんにはいかなる不快症状もない。

#14 RCT 6M CBCT(2023.1.14)

MB根の中央にGutta Perchaが見える。

このことは、この歯のMBにはMB2がないことを示している。

90%存在するから全ての根管にMB2がある!わけではない。

このことは前述したとおりだ。

MB

MBに病変はないと思われる。

DB

DBにも何の問題も起きていない。

経過は良好だ。

P

Pにも問題はない。

ということで半年経過しても何の問題もなかった。

ということで、もしこのブログをご覧の患者さんの中で

”何としても神経を残したい!”と思っている人がいればその考えを変えた方がいいだろう。

ということで世の中への啓蒙?のようなブログを今日は書いてその筆をおこう。

(まあ別に命に関わり合いはないけれど)