紹介患者さんの治療と経過観察。
数年前に治療を行っていた患者さんである。
海外から一時帰国されており、経過を見させていただけた。
当時の主訴などは以下になる。
主訴は
2017.7.28に他院でApicoectomyした部分が腫れた
である。
病歴は複雑だった。
小学校1年生の時に患者さんは根管治療をしている。
その後歯の色が変色したという。
高校生の時に歯内療法はせずクラウンを装着している。
しばらくは問題が出ていなかったが、
当時の博多駅東の歯科医院を受診する3~4年前から歯茎にできもの(Sinus tract)ができてしまった
という。
しかし痛みはなかった。
が、他院で勧められてApicoectomyをしている。
他院では、根尖病巣があると言われている。
言葉にミステイクがあることは以前のブログでも指摘させていただいたことだ。
その先生も治癒が見込めないから…とApicoectomyに踏み込んだ。
しかし、そのApicoectomyがうまくいっていないという。
また患者さんは、歯茎・歯の色の変色も気になるので、それらも含めて#8が治癒したら総合的にきちんとやり直したいという主訴であった。
#8はPFM Crownであった。
歯内療法学的検査(2018.5.31)
#7 Cold+4/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#8 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(+), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#9 Cold+5/17, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
右上1(#8)に問題がありそうだ。
歯周病の問題はない。
つまり、審美的な問題は#8以外起きない。
が、#8はOpeがうまくいったらやりかえるという。
ということはOpe自体でその後のこの患者さんの審美に影響を及ぼす要素は何もないと思われる。
ここで、PAを撮影した。
PA(2018.5.31)
#8の根尖部には大きな病変があり、人工骨が詰められている。
USCではするな、と言われたことがなされていた。
歯内療法学的診断(2018.5.31)
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Apicoectomy
推奨される治療はApicoectomyである。
えっ?一回Apicoectomyをやっているのにまた?
そう思う人は多いだろう。
しかし、上記のPAは正しいApicoectomyをしたといえるだろうか?
歯根端切除はしてあるが、逆根管形成・逆根管充填はしていない。
以下の論文ではどのように書かれているだろうか?
Apicoectomy時に、MTAで逆根管充填したものと、根尖部を切断したままの場合(日本の大学病院の多くの治療方法)の成功率の違い
に関する論文がある。
MTAで逆根管充填すると成功率は96%あるものの、
切断しただけだと成功率は52%しかない。
ここからいえる事実は、
Gutta Percha Pointに封鎖性はない
という事実である。
外科をしたらバクテリアを減少させた部分に新たなバクテリアが入らないようにするにはRetroprepしてそこにバリアを置かなければならない。そのバリアの役目があるのが、MTAなのである。
したがって、以前の治療は治療とは言えない。
そしてもう一つは上記のPAでは見にくいが、
#7~8の根尖部には人工骨が埋め込まれている
という事実である。
紹介状にはそのような記載があった。
Purosという骨補填材を歯槽骨に填入しているという。
通販サイトを見ると、¥16,500〜¥40,000程度する骨補填材だ。
患者に請求しようと思えばその3倍が一般的であるので、恐らく¥50,000〜¥120,000チャージされたであろう。
穴があれば何かを入れたがるのが日本人歯科医師の習性だ。
USCでは人工物は一切入れるなと教わった。
その理由が知りたい方は、Complications in Endodontic Surgeryの第16章を読むかAdvanced Course 2021に出席すれば解決する。
どちらにしても基礎系の知識が必要になるが。
さて私はこの患者に何と説明したか?だが、
①歯根端切除をしているだけで逆根管形成・逆根管充填をしていない
②人工骨が埋められている。人工骨があるとApicoectomyを行って治癒したか?していないか?がわからなくなるので不要。できる限り掻爬し除去する。(が、このPurosが原因で治癒していない訳ではないことを強調した。)
という説明をし、外科治療をやり直した。
2018.7.10のことである。
当時の外科動画がHDDに奇跡的に残存していた。
☆外科動画が出てきます。不快感を感じる方は試聴をお控えください。
#8 Re-Apicoectomy(2018.7.10)
パピラベースでフラップを開けている。
#8のApexを探すのが最初の目的である。
ちなみにFlapはどの方法で開けても問題はない。
なぜか?といえば、審美的な問題は残らないからだ。
その理由は、
この患者さんは若い女性で歯周病の患者ではないからだ。(また患者さんによれば、#8はOpe後に補綴をやりかえる予定のため歯茎が下がっても問題がないという)
そもそも世の中に歯周病の患者が多数いるだろうか?
私の歯科医院は既に開業して300人以上の患者さんがきているが深い歯周ポケットを有する患者はゼロだ。
どこにそういう人がいるのだろうか?
そういう方は歯周病専門のクリニックに行けばいいのでうちの守備範囲ではない。
根尖部を見つけると…
やはり切除しただけで逆根管形成も、逆根管充填もしていない。
ベベルを30度くらいつけて切断しただけである。
これではApicoectomyの成功率は50%もないことは上記の文献通りだ。
ベベルがついているRoot resectionを修正した。
切断した時に顕微鏡でみても切断面が見えなければ水平に切れていることになるが、既に切られているので多くの切断ができない。
できる限り水平になるように調整した。
そしてRetroprepを行った。
Stropko Irrigatorが使用できなければ、この動画にあるように
マイクロサクションを用いてその先にエッチングのチップをつけてそれを曲げれば逆根管形成窩洞内を乾燥できる。
生活の知恵?だが、こんな面倒なことをするくらいならさっさとStropkoに変えた方がいい。
誰でも取り換え可能である。
FEEDの以下のページに商品は掲載されている。
サニチップ アダプターキット
以下のブログ記事も参考にしていただきたい。
White MTAで逆根管充填した。
PAを撮影して逆根管充填の状態を確認した。
術直後なので歯槽骨の吸収部位は黒くレントゲンに写っている。
ここがどう変化するか?を追うことになったが、患者さんは海外に引越しのため以下の3M recallの状況しか把握できなかった。
#8 Apicoectomy 3M recall(2018.10.1)
根尖部の骨欠損は回復してきているように見える。
治療前の主訴=Perc.(+), Palp.(+)も消失した。
しかし患者さんはここで外国に引越しになってしまった。
その後、私が脳出血で倒れたために予後を見れなくなっていた。
が、患者さんが先日、日本一時帰国していたために予後を把握することができることになった。
Apicoectomyしてから5年が経過する。
#8 Apicoectomy 5yr Recall(2023.2.21)
Apicoectomy後に、日本で補綴治療のやりかえを行っていたそうだ。
メタルポストコアを除去したため、MTAよりも上部のGutta Perchaがモソモソなっている。
が、それは治癒には影響しないことは昔から言われていることだ。
またこの日はCBCTも撮影してもらった。
#8 Apicoectomy 5yr recall CBCT(2023.2.21)
GBRの材料は全て取り切れていないが、#8の根尖部の病変は消失した。
断層像を見てみよう。
#8の根尖部は歯槽骨で覆われている。
5年経過してComplete Healingを達成したようだ。
初診時のPAと比べてみた。
以下、患者さんの感想。
すごく治癒してますね!本当にありがとうございました。また日本に戻ってきたらぜひ経過を見てください。今後ともよろしくお願いいたします。
ということで次回は患者さんと連絡を取り合ってRecallの日時を決めることになった。
また次回、この患者さんの予後をお伝えする。
それまで少々お待ちください。