昨日のブログの患者さんの別部位の経過観察処置。
彼女の主訴は以下である(当時 2017年)
4年前(2013年)に右上の一番奥の神経を、続けて3年前(2014年)に左上の一番奥の根管治療をした。毎月1回程度掃除に通っていたが匂いなどが気になり他の病院でCTを取ると根管充填剤が上顎洞へ突き抜けている状態だった。このはみ出たGutta Percha Pointを取りたいが…取れるのか?取ってくれるのか?
であった。
さて、この質問に対してあなたは何と答えるだろうか?
取れます!と答えるか?
取れません…と答えるか…
取る必要はない!と答えるのか。
さてどうだろう?
今日はこの点に関して解説したいと思う。
初診日は2017.9.14であった。
初診時(2017.9.14)
歯内療法学的検査は以下になる。
#14 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#15 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(+), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
PAは以下になる。
根管充填材の周囲に黒い根尖病変が見える。
ちなみにいつも通りラバーダム防湿はしていない。
これが日本の歯科医療の正常運転だ。
DBからはGutta Percha PointがApical Foramenからはみ出ていた。
さてこれを回収してほしいという希望(主訴)である。
歯内療法学的診断は以下になる。
#15 Pulp Dx Previously Initiated Therapy Periapical Dx Symptomatic Apical Periodontitis Recommended Tx Re-RCT+Core Build up w/wo Fiber Post
私は、なぜこれを回収してほしいのか?と患者さんに質問した。
すると以下のような回答があった。
”薬がはみ出てしまいそれが原因で私の歯は痛いのではないのか?気になって寝れない…”
若い女性を気になって寝れなくしてしまうくらい罪深いことを歯科医師はしているという状況をあなたは理解しなければいけない。
さて。いかなる治療が必要だろうか?
CBCTを撮影した。
初診時 CBCT(2017.9.14)
さてこのGutta Percha Pointを私は回収しなければならないだろうか?
といえば、以下の論文が真っ先に浮かんで来る。
Sjorgren 1995 Tissue reaction to gutta-percha particles of various sizes when implanted subcutaneously in guinea pigs
GPの生体親和性の実験。
豚の皮下にGPをそのもの(1~2mmの大きさ)、細かくしたもの(50~100μm)を埋め込み、組織の炎症反応の有無を検査した。
結果は以下になる。
でかいGutta Percha Pointは除去する必要性がない、ということがわかる。
私はこれを説明してあげた。
それよりも重要なのは、無菌的な状況で再根管治療をすることであると。
ラバーダムなく根管治療することの問題、MBは触れていないという事実。DBはアピカルストップがついていないし、Pには根尖病変がある。これが最も厄介だ。
これらを全て説明して、患者さんは再根管治療に同意し、治療が行われた。
再根管治療(2017.9.14)
はみ出たGutta Percha Pointを回収するのは私の技術では不可能であった。
が、この歯の最大の問題である根尖病変の原因である口蓋根はよく根管形成でマネージメントできたと思う。
ダメなら、Intentional Replantationである。
ということでここから時間をおいて経過を見ることとなった。
6M Recall(2018.3.8)
根尖病変はかなり落ち着いた感じがしている。
半年くらい経過するとそれがわかるようになる。
さて、ここからさらに1年後経過を見せていただく予定であったが、私がが倒れて叶わぬ夢になった。
が、患者さんに連絡すると経過を見せていただけた。
治療終了から時間は5年経過していた。
#15 Re-RCT終了後 5年経過(2022.4.12)
この時点で初診時にあった臨床症状は全て消失している。
飛び出したDBのGutta Percha Pointはどこに行っただろうか?
消えてなくなったのか?
それとも??
CBCTを撮影した。
#15 Re-RCT終了後 5年経過 CBCT(2022.4.12)
Gutta Percha Pointがなくなっている。
というよりは、恐らく
歯槽骨が回復してGutta Percha Pointはコンプレスされた
気がする。
(もちろんそのようなエビデンスはない)
ちなみに#2もRe-RCTしているが以下のように回復している。
#2 初診時(2017.9.14)
分岐部病変がある。
エンドーペリオ病変が疑われる。
が、エンドの治療がいかなる場合でも先だ。
ペリオの治療は後回しにされる。
これがこの治療の流れである。
この時は分岐部病変があった。
ここから再治療で時間が経過して以下のように変わっている。
#2 Re-RCT 5年経過(2022.4.12)
分岐部病変は消失している。
歯周治療を行わずに済んでいる。
エンドのマネージメントがきちんとできればほぼ歯周処置は不要である。
ということで長期にわたる経過観察は終了した。
CBCT撮影はこの後は4年に1回程度でいいだろう。
長い経過観察が終わりを告げた。