紹介患者さんの治療。

主訴は

右上の奥の歯の神経を残したのだが、歯が痛い。痛みで夜、目が覚める時がある…

である。

歯内療法学的検査(2023.6.16)

#2 Cold++1/32, Perc.(++), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#3 Cold+1/13, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#4 Cold+2/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

主訴が歯に痛みであるにも関わらず、冷たいものを歯に当てなければならない。申し訳ないがこればかりは仕方がない。

患歯(#2)はPercussionにも痛みがあった。

急性化膿性歯髄炎(AAEで言うところのSymptomatic irreversible pulpitis)の可能性が高いだろう。

PA(2023.6.16)

患者さんに聞くと、#2は虫歯が深かったと言う。

一部神経が出たので、MTAセメントで貼付し神経を保護したようだ。

もう何度も言うが、

MTAセメントに歯髄の炎症を鎮める作用はない。

あるのは、

封鎖性が高いということのみ

である。

MTAが始めて世に出た研究は逆根管充填材としての封鎖性を見る研究である。

歯髄炎を鎮める研究などみたことがない。

そんな薬理効果があるのならば、世界中の人がその材料を使用するだろう。

これも何度も言うが、このような直接覆髄の治療の成功率は30%程度である。

Bjørndal 2010 Treatment of deep caries lesions in adults: randomized clinical trials comparing stepwise vs. direct complete excavation, and direct pulp capping vs. partial pulpotomy

成功は薬剤が決めるのではなく、年齢と歯根の完成度が決め手になるのだ。

と何度言っても誰も?信用しないので、そういう治療はもうどうぞ、とその人に任せます!としか言いようがない。

しかし私は思う。

これは誰にでも当てはまるのだが、人間は等しく全員歳をとる。そしていつか死ぬ。

それに抗える人は誰もいない。

それは運命だからだ。

歯内療法にエビデンスなどほぼない。

あるのはほとんどIn vitroの研究ばかりだ。

そして人の命を救えない。

歯の痛みは取れるけど。

だからクリニックへ行くのだ。

用があるから行くのである。

現に私には脳動脈瘤がまだあるので、脳外科に行くのである。

3ヶ月に1回、脳外科に行ってそれが小さくなるなら通うだろう。

が、そんなことは起きない。

つまり、どれほど従業員の接遇を良くしたり、高価な雑誌を置いても患者は行かないのである。

そんなこと考えればわかるし、当たり前のことだ。

この業界はその意味でどうかしているのだろう。

たかだか、それだけのことなのにだ。

誠実に治療すればいいのだ。

それが難しいのであれば、費用を請求すればいい。

なぜしないのだろうか?

と言えば、自分に自信がないからだろう。

そして税金を黙ってもらう方が楽だ。

何の苦労も格闘も不要だろう。

それに、そういう自信がないなら、そもそも開業しなければいいだけだ。

この一連の話を患者さんにすると妙に納得されていた。

CBCT(2023.6.16)

MB

MBは覆髄を行ったので、歯髄が石灰化している可能性がある。

CBCTでも根管が判然としない。

が、根尖病変がない。

このことは、必ずしも穿通させる必要性がないことを意味している。

DB

P

Pは根尖病変があるような、ないような…わからない。

歯内療法学的診断(2023.6.16)

Pulp Dx:Symptomatic irreversible pulpitis

Periapical Dx:Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx:RCT

ということで、別日に根管治療を行った。


☆この後、臨床的動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。


#2 RCT(2023.6.21)

MBが露髄すると吹き出すように暗赤色の血液が流れ出てきた。

私の術前の診断は、やはり正しかったのだ。

そして、

生活歯髄療法を成人に行うことの無力さがここにも現れている

のである。

神様にわれわれは逆らえない。

が、根管形成をするにはまだまだ窩洞を整えなければならない。

ということで、SXを用いてコロナルフレア形成を行った。

懸案のMBはSXが入っていった。そして穿通もできた。

その後、作業長を測定し以下のようになった。

抜髄根管だが細菌感染がある可能性はなくはないので、最低でも#40.04まで形成しておく方が無難だ。

BC sealerを用いて、Single Pointで根管充填した。

支台築造し、PAを撮影した。

問題はないと思われる。

かかりつけ医には補綴をすぐに行ってもらうように依頼した。

当歯科医院の経過観察は、1年後である。

そこで問題がなければもうRecallは不要だろう。

が、#3にも問題があるのでまだまだ予断は許さないと思われる。

またその模様はご報告いたします。