外科治療の経過観察。

外科治療は今から1年前(2022.8.4)に行われていた。

私の健康状態の回復と“米国歯内療法専門医による夏の臨床力アップセミナー”について

そこから時間が1年経過している。

そもそもは、歯髄を保存した治療を紹介先の歯科医院で行っていた。

なぜそういう治療をしたか?といえば、

前医の誰かが、

神経を取ると歯が脆くなる

と信じていたためである。

それは事実なのだろうか?

以下のセミナーで7/30に語った通り、そういうことはない。

私の健康状態の回復と“米国歯内療法専門医による夏の臨床力アップセミナー”について

ではなぜそう思われているのだろうか?

紙コップを例に説明しよう。

この状態の紙コップを潰そうとするとパワーを強く加えればぐしゃっとなるものの、そう容易に潰すことはできないだろう。(ご自身でお試しください)

が、

このように紙コップにMOD形成するとどうなるだろうか?

この紙コップを切った部分にはゴールドやセラミックのような修復物が入ることになるが、いずれにしても容易に破折が起きることはイメージがつくだろう。

しかし、こう削った紙コップに別の紙コップを王冠のように被せるとどうだろうか?

強度が増すことがわかるだろう。

これを理解することの何が難しいだろうか?

非常にイメージしやすい事象だ。

が、この患者さんは力があまりかからない前歯の治療をしている。

なので、王冠を被せる必要がない。

前歯にクラウンが必要ない!という理由はこのように紙コップで考えると容易である。

というよりは…

こんなこと何が難しいのか?と思うが。。。

まあ、これの歯根(根管)バージョンもあるが、話がこの投稿の趣旨とズレるのでまた機会があればお話ししよう。

当時(2020.8.12)の検査の内容は以下になる。

#9 RCT時 歯内療法学的検査(2020.8.12)

#8 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#9 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)

Cold testに反応がなく、Sinus tractもある。

この時点で#9は失活していることが考えられる。

PAを撮影した。

露髄寸前で充填している。

多分、事実上のDirect Pulp Cappingなんだろう。

その結果、根尖部には病変もできている。そしてSinus tractもある。

この時点で、

Chronic apical abscess

であり、外科治療に移行する可能性が高い。

先月の東京で話した通り、生活歯髄療法は成人の歯で行うような治療ではないからだ。

東京歯内療法セミナー2023

ということで、紹介元の先生が歯内療法へ移行した。

紹介元の先生は私の以前のコースの教え通り、

ラバーダムをかけて(PAのクランプに注目!!)、

ファイル試適、

ポイント試適、

をしていた。

問題ない位置にファイルはある。

そのまま根管形成し、ポイント試適した。

Length Controlもきちんとできている。

根管充填した。

Single PointでBC sealerを使用している。

私が教えたことがある先生であるので、私が使用している器具を使用しての歯科治療であった。

いい位置で根管充填材はカットできている。

側枝にも根管充填できて大満足です(実際はシーラーがたまたま入っただけだが)、ありがとうございます!と称賛された。

ここからこの先生は経過を追う。

時間は1年経過していた。


#9 RCT 1yr later recall(2022.5.21)

PA的には問題がないが…

Sinus tractが消えないでいた。

1年経過したのに、である。

CBCTもこの先生は撮影した。

#9 RCT 1yr recall CBCT(2022.5.21)

根尖病変は消失していない。

側枝に迷入したBC sealerは消失している。

根尖病変と思しき透過像はない。

が、日本人に珍しく頬側の皮質骨が厚い。

さておき、この歯の根管治療(しかもInitial RCT)の失敗の原因はなんであるか?

だが、

やはりInitial RCTでもSinus tractが存在したこと

が一番大きな原因だろう。

口腔内と根尖部が交通している

のである。

ここまで太く拡大(かかりつけ医に聞くと#50.03まで拡大)して根充しても問題が解決できなければ、Apicoectomy一択である。

うちの歯科医院は高額なマイクロスコープがあるからとか、

最新の設備があるからとか、(まあ歯内療法に最新の設備はもうないだろうけど)

日本歯内療法学会の専門医だからとか、

大学病院の歯内療法科にいたからとか、

そうしたことは一切関係ないのだ。

あなた自身がどういう人で、何を考えて臨床しているか?が全てだ。

そして、Apicoectomyができないのであれば…

できる人に紹介するか、

自分でケツを拭くか(セミナーなどに出てできるようにするか)、

大学病院に紹介するか(しても治癒しないが)、

いずれかしか道がない。

ということで、この先生は当歯科医院に紹介された。

当歯科医院でも検査を行うと、以下のようであった。

歯内療法学的検査(2022.6.25)

#8 Cold+2/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#9 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)

Sinus tract部分(根尖病変部位)を触ると圧痛があった。

歯槽骨が開窓していることをこれは示していると思われる。

PA(2022.6.25)

PAでは判然としない。

やはりCBCTが必要だ。

CBCT(2022.6.25)

Apexの近心に根尖病変がある。

これがPalpation(+), Sinus tractの原因であろう。

ということで、当歯科医院でApicoectomyへ移行した。


☆以下、外科動画が出てきます。気分を害する方は視聴をSkipしてください。


#9 Apicoectomy(2022.8.4)

患歯(#9)の2歯近心・遠心が術野なので、右上2に縦切開を入れて外科治療はスタートした。

剥離し、CEJよりApexまでの距離を測り、Osteotomyを行った。

Apexが発見できれば治療は容易い。

が、術前のCBCTを見てほしい。

かなり分厚い頬側の皮質骨だ。

こういう人を私は初めて見た。

Apexを剖出した。

3mm切断した。

どのように3mm切るか?はこのブログでも説明した通りだ。

リンデマンバーを定規のように使用すればいい。

わざわざポケットプローブやルーラーなどは使用しない。

そんなことにエビデンスはないからだ。

 

治療は数十分で終了している。

ここから時間が経過したので本日その模様をお伝えしよう。

治療から9ヶ月が経過していた。

#9 Apicoectomy 9M recall(2023.4.21)

歯内療法学的検査(2023.4.21)

#8 Cold+2/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#9 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(±), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

術前に存在していた圧痛, Sinus tractは消失した。

が、圧痛はあるような無いような…という感じだそうだ。

この意味不明な病態の原因はなんだろうか?

もしかすると治癒していないかもしれない。

PAを撮影した。

#9 Apicoectomy 9M recall PA(2023.4.21)

術後にあった歯槽骨の欠損は回復しているように見える。

では先ほどのPalp.(±)の原因はなんだろうか?

CTを撮影した。

#9 Apicoectomy 9M recall CBCT(2023.4.21)

術前の根尖病変は消失していた。

では、Palp.(±)の原因は何だろうか?

Palpationに反応があるような無いような微妙な感じなのは、歯槽骨の回復がまだ途中だから

だと思われる。

あと数ヶ月すればそうした違和感は解消されると思われる。

術前、術後を比較した。

ということでここから3ヶ月経過し、術後1年になった。

Palp.(±)は解消されただろうか?

#9 Apicoectomy 1yr recall(2023.8.29)

検査結果は私の予想通り、全ての検査が陰性であった。

圧痛は若干感じるものはあるものの、痛みもないし普段は全く気にならないとのことだった。

術後の歯肉は以下である。術前と比べてみた。

<術直後>

<抜糸時>

見るも無惨な?口腔内が1年後にどうなっただろうか?

以下に示す。

<1年経過>

全く何の問題もない。

さて。

これはなぜだろうか?

といえば、

術前の#8,9,10の歯周ポケットが全てWNLであるからである。

というよりも今のこの世の中の何%の人が歯周病なのだろうか?

うちの歯科医院は今まで400人くらいの患者さんが来られたが、歯周ポケットが4mm以上の人はいないのだが。

私は常々この%は怪しいと思っている。

そして、以上のことから何がわかるか?といえば、

歯周病の患者さんに歯内療法はできない

ということである。

リスクが高すぎるのである。

PA(2023.8.29)

全く問題がない。

CBCTも撮影した。

CBCT(2023.8.29)

よく治癒しているが、頬側の皮質骨はもう少しかかるだろう。

以上を整理すると以下のようになる。

その昔、藤本研修会・ペリオコースで、藤本浩平先生が、

もし、きちんと縫えなくても大丈夫です。最後は神様が治してくれます

は、やはり事実だろう。

歯周病の歯でさえそうなのだ。歯周病のない歯なら尚更だろう。

ということで次回は1年後である。

また経過をご報告したい。