紹介患者さんの治療。

クラウン形成した生活歯の#14に違和感があるという。たまにすごく沁みることもあったそうだ。

検査を行った。

歯内療法学的検査(2023.7.28)

#13 Cold+3/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#14 Cold++1/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#14はColdに強く反応した。

このことは、#14が歯髄炎である可能性を秘めている。

また、#14は既にクラウン形成がしてある。

これもこの歯の歯髄に影響を与える因子になっていると考えられる。

Asymptomatic irreversible pulpitisの匂いがしてきた…

多くの歯科医師の方へ。

このように、生活歯をクラウン形成しても患者は幸せにならないことがお分かりいただけるだろうか??

補綴治療はいつも、患者を幸せにしない

のである。

必要悪でやる治療が補綴治療だ。

それ以上でも以下でもない。

PA(2023.7.28)

歯髄に極めて近い覆髄処置がなされている。

そこには覆髄材の存在も確認できる。

私からすれば…既に露髄している

といっていいだろう。

これは、いわゆる直覆(Direct Pulp Capping)だ。

Direct Pulp Cappingの成功率は、先日東京で講演した通り成人では極めて低い。

小児では高いけども、だ。

このように生活歯髄療法は、

小児患者でやるものでテクニックに依存されない治療

であることがわかる。

それでも、多くの歯科医師がなぜその治療をやるのか?といえば、

露髄をさせるとややこしいことになる

からだろう。

ややこしいことになるくらいなら、どうすればよかっただろうか?

それも先日の東京の講演会で話した通りだ。

さて。

今までの問診からして、いわゆる、

Asymptomatic irreversible pulpitis

であろうと思われる。

CTも撮影した。

CBCT(2023.7.28)

MB

MB2は90%の歯にあると言われているが、このように明らかにないこともある。

なぜないと言えるのか?あなたはわかるだろうか?

わからなければ、Basic Courseでお待ちしています。

DB

P

CBCTがあればこのように術前にMB1しかないということがわかる。

このように、

CBCTは歯内療法には欠かせないもの

であることがわかると思う。

もはやそれなしでは臨床が成り立たない。

これが術前に分かれば、この根管治療に時間はほとんどかからないことがわかる。

つまり…

時短で根管治療をしようと思えば、CBCTは必須の道具

と言える。

が、

それをどう扱えばいいか?はほとんどの人が知らないけども。

また、

どんなファイルを使用すればいいか?とか、

どんな洗浄液を使用すればいいか?とか、

どんなシーラーを使用すればいいか?とか、

どんな根管充填方法がベストだとか?、

そうしたことはどうでもいいのである。

歯内療法学的診断(2023.7.28)

Pulp Dx: Asymptomatic irreversibel pulpitis

Periapical Dx:Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: RCT

ということで別日に治療へ移行した。

さて。

Asymptomatic irreversible pulpitisとは何だろうか?

今日はそれについて解説しよう。

AAE(アメリカ歯内療法学会)によれば、以下のように定義されている。

Asymptomatic Irreversible Pulpitis is a clinical diagnosis based on subjective and objective findings indicating that the vital inflamed pulp is incapable of healing and that root canal treatment is indicated. These cases have no clinical symptoms and usually respond normally to thermal testing but may have had trauma or deep caries that would likely result in exposure following removal.

症状はないが深い虫歯で露髄が予想されるケースがAsymptomatic Irreversible Pulpitisとされている。

ここに重要な根管治療の考え方が潜んでいる。

深い虫歯、露髄しかねない虫歯は米国ではAsymptomatic irreversible pulpitsiとして扱われる。

日本にはない考え方だろう。

なぜこのように考えるのか?といえば、

生活歯髄療法を成人で行うと、結果がPAかCBCTでのみ判断されるから

失敗すると歯髄が石灰化して、そこに根尖病変ができると外科治療のみでそれを改善するするしかないから

である。

PAやCBCTだけで予後が判定されれば…患者や臨床家は報われないだろう。

それが歯科医療なのだろうか?

私は唖然とする。

ということで、以上を考慮して歯科治療というのは行われるべきである

ということがわかるだろう。

ではこの患者さんはチャンバーオープンすると血まみれになるだろうか?

それとも…

健康歯髄だろうか?

以下の治療動画で確認してみよう。


☆この後、治療動画が出てきます。気分を害する方は視聴をSkipしてください。


#14 RCT(2023.8.25)

チャンバーオープンした時の歯髄はどうなっているだろうか?

新鮮な?プルンとした歯髄なのか?それともAsymptomaticだがIrreversible pulpitisなのか?

さあ私の予想(Asymptomatic irreversible pulpitis)は当たるのだろうか?

血まみれだ。

これが健康の歯髄から出る出血だろうか?

私にはそうは思えない。

この出血の色が暗赤色だからだ。いわゆる”鮮血”のようなFleshな色ではない。

ということで、SXで根管口を広く開けてC+ File #10で穿通を試みた。

そして、以下のように作業がなされた。

BC sealerとGutta Percha Pointを使用してSingle pointで根管充填した。

その後、PAを撮影した。

問題はないと思われる。

かかりつけ医には、このまま最終補綴へ移行してもいいという話をした。

なぜか?

根尖病変がないからである。

経過を置かずに、即・最終補綴でいい。

次回は1年後である。

また経過をご報告したい。