紹介患者さんの経過観察。
治療は今から半年前に行われていた。
当時の主訴は、
右上の奥歯の根管治療を希望している。が、根の1箇所が曲がっており、他院では処置不可能と言われた…処置できますか?(痛みなどはない)
である。
歯内療法学的検査(2023.3.7)
患歯(#3)には咬合痛が見られた。
PA(2023.3.7)
CBCT(2023.3.7)
MB
MBは根尖病変と根管形成のテクニカルエラーが出て再度修正が効かない状況になっている。
そして上顎洞粘膜の肥厚である。
長期間にわたる歯科治療が起こした医原的疾患と言える。
MB1ははっきり見えるが、MB2は定かではない。
ここから予想できることとしては…
おそらく、根管が石灰化していたのだろう。
患者さんに聞くと、最初は神経を保護する治療をしたという。
それがうまく行かないと、
根管が石灰化して、根尖病変ができて、外科治療でしか問題が解決できなくなる。
それが嫌なら…
無駄な治療(成人への生活歯髄療法)はやめ、術前に臨床症状がなければIndirect Pulp Capping一択でいけばいいものの、歯科医師という仕事のサガなのか、虫歯を全て取ろうとして患者の信頼を失うという悲しい結果になってしまっている。
もうそろそろ何が原因か?気づくべきだろうが私がどうこう言えることではないので気づいた人だけが日々の臨床で患者さんに説明すればいいだけなのである。
DB
DBにも病変がある。
ここも穿通が必要かもしれない。
そしてここも上顎洞粘膜が肥厚している。
歯内療法がうまくいっていないことがこの問題を引き起こしている。
P
P根にも根尖病変があり、すでに形成されているような印象を与える画像が目に入る。
ここの病変が治らなければ…
頭が痛いことになる。
それは回避しなければならない。
歯内療法学的診断(2023.3.9)
Pulp Dx: Previously initiated therapy
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Re-RCT
治療はRe-RCT 一択だ。
同日に治療へ移行した。
#3 Re-RCT(2023.3.9)
結果的に…テクニカルエラーを修正することはできなかった。
以下のようになる。
#60.02まで形成して、#40.04で根管充填した。
その他二つは閉鎖である。
根管が開かない時…粘る人がいる。
私は普段どうするか?であるが、
C+ Fileを#10,8,6とクラウンダウンしていき穿通しなければそこで諦める。
もしも穿通が必須の根管であれば、
メカニカルにどうこうしようかなと思わないでもない。
ということは何が大事か?といえば、
このケースは穿通させる必要があるのか?を術前に認識することが必要なことだろう。
患者さん曰く、
抜髄を強く勧められて、根管治療へ移行した(かかりつけ医の前の歯科医院で)
ということなので、
この歯は生活歯髄を有する根管を持つと考えるべきだろう。
その場合、先の方まで形成できなくても治癒する確率が有ればいいのだが、私はそのような研究を見たことがない。
つまり、経験的には普段よりも低位な位置での断髄となるので、成功率は98%くらいあると考えるべきだろう。
が、これらは
患者さんの話に基づく経験値で理論的な話ではないということに論はまたないが…
根管充填した。
さて、この歯が半年時間を置くとどうなるだろうか?
治癒するだろうか?
それとも外科一直線だろうか?
#3 RCT 6M recall(2023.9.2)
術前の咬合痛は消失していた。
主訴が改善したのだ。
PA(2023.9.2)
CBCT(2023.9.2)
MB
DB
P
穿通していないのに、
根尖病変は消失した。
また、
上顎洞粘膜の肥厚も治癒した。
このように、
歯内療法を適切に行うと耳鼻科的問題も解決できる可能性があることを示唆している。
術前と術後を比較してみよう。
術前(2023.3.7)
術後(2023.9.2)
術前(2023.3.7)vs 6M recall(2023.9.2)
ということでこれで最終補綴へ移行できる。
6か月のリコールが終了した。
この症例から推測できることとしては、
生活歯髄の根管石灰化症例では(根尖病変があっても?)無理に穿通させる必要なし
ということだろう。
このように歯内療法は治療の前に頭を使用することが大事である。
皆さんもぜひ、このような患者さんがいれば試して?みましょう。
次回はさらに半年後である。
また経過をお伝えしたい。