患者さんは30代男性。

主訴は前歯の根管治療希望。

以前の歯科医院で見ていた患者さんをバイト先で拝見することになった。

初診は以前の博多の歯科医院で診ている。

その際の歯内療法学的検査は以下のようになる。

#6 Cold+2/7, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#7 Cold+15/3, Perc.(-), Palp.(±), BT(±), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#8 Cold+15/7, Perc.(-), Palp.(±), BT(±), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#9 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(±), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#10 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(++), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#11 Cold+5/8, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WML), Mobility(WNL)

左上1(#9), 左上2(#10)にはCold testに反応がない。が、#10はBT(++)である。

おそらくここから、

#10は根管治療が必要で、#9は不要である

ということが予想できる。

そこでEPTを行うことにした。

#9 EPT+12/80

#10 EPT NR/80

#9はEPTのメモリ12で反応した。

#10はEPTのメモリをMaxまで持っていったが反応がなかった。

つまり、

#9は生活歯髄

#10は失活歯髄

である可能性が高い。

が、この事実はまだ患者には伝えていない。

ここでPAを撮影した。

PAを見ても歯髄の生活/失活は予想できない。

では、CBCTなら予測できるのか?といえば、それも無理だ。

つまりこの症例は

歯内療法学的検査の結果に基づいて処置が決まる

という歯科医師にとって重要な症例と言える。

私の説明はColdとEPTの結果に基づく説明をしている。

つまり、

#9 Cold NR/20

#10 Cold NR/20

であり、

#9 EPT+12/80

#10 EPT NR/80

#9はEPTのメモリ12で反応した。

#10はEPTのメモリをMaxまで持っていったが反応がなかった。

また咬合痛に関して

#9 ー

#10 ++

である。

ということは、

#9は生活歯髄

#10は失活歯髄

である可能性が高い。

Weisleder 2009 The validity of pulp testing: a clinical study

によれば、

Coldが+でEPTが+であれば、97%の可能性で生活歯髄であると言えるが、

ColdがーでEPTもーであれば、90%の可能性で歯髄が壊死している可能性がある

という研究がある。

ということで私は患者さんにその話をした。

患者さんは根管治療を行うことに同意したのでその日のうちに歯内療法と支台築造を行うことになった。

チャンバーオープンすると歯髄の中には何もない状態であった。

いわゆる、壊死歯髄状態であった。

根管形成を行い、Gutta Percha Pointを試適した。

問題がない位置までGutta Percha Pointが試適されていると判断し、この位置で根管充填することにした。

治療の内容は以下になる。

根管充填した。

Gutta Percha Pointの位置を調整してレジンで支台築造した。

つまり、

口腔内からの細菌による二次感染を起こさせないように、Gutta Percha Pointの上端の位置を歯槽骨の中に入れるように意識し根管充填をやり直した

のである。

Nissan 2008によれば、

前歯において、フェルルが2mmあればポストの長さは予後に影響しないという研究がある。

http://www.quintpub.com/userhome/qi/qi_39_8_Nissan_12.pdf

したがって口腔内からの感染を防止するような位置で根管充填を行えばいいとわかる。

そのPAが以下である。

ということで1回法で根管治療は終了した。

ここから4ヶ月が経過した。(2018.11.22)

初診時にあった咬合痛と打診痛は消失していた。

PAを撮影した。

が、根尖病変的な透過像はそのままという印象であった。

この後、私は倒れて予後が追えなくなったがこの歯科医院で久々に予後調査ができるようになったのである。

初診時から3年半が経過していた。

その際の歯内療法学的検査は以下のようになった。(2021.11.24)

#9 Cold NR/20, EPT+24/80, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#10 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#11 Cold+8/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

初診時にあったひどい咬合痛は消失している。

また、#9は変わらずEPTに反応した。

つまり、生活歯髄と言える。

#10は歯内療法により主訴が解決していた。

最後に、PAを撮影した。

根尖病変が存在していた位置には歯槽骨が添加されている。

つまり、Healedと言って良いだろう。

この症例から学べることは、歯科医学的には多々あると思われるが、主訴は時間と共に解決したのである。

が、悲しいかな歯科医療は命には関わり合いがない。

しかし、コロナは気がつけばその感染者が全国的に相当数減少してきた。

もう国民の我慢は期待できないだろう。

ということで、この患者さんは来年また来院される。

特に#9の歯髄の生死は重要である。

Cold test, EPTともに反応がなければそこも歯内療法は必要である。

これからも続けてご報告したい。