バイト先での治療。

患者は30代になったばかりの女性。

主訴は左上の犬歯の腫脹。

ちなみにこの患者さんの治療前の状態は以下のようである。

この左上3番にはパラレルの長いポストコアが装着されている。

これを除去して再治療するのはかなり難しい…

しかしバイト先の先生はそれをご自身で行われた。(2018年3月2日終了)

その後補綴治療・修復治療も順調に終わり、それから2年で左上の犬歯にSinus Tractが出現したわけである。

パノラマ、PAは以下のようになる。

#11のPAである。

術前検査では

Perc(-), Palp(±), Bite(-), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)

ちなみに#10はCold(+)であった。

えっ?オールセラミッククラウンが装着されている歯でもCold testできるの?と思ったあなた、Cold testできるんです。

詳しい内容はBasic Courseでなぜか?知ることができる。

ということで術前の診断は

Pulp Dx: Previously Treated, Periapical Dx: Asymptomatic Apical Periodontitis

である。

さて治療方法はどうなるだろうか?

おれがマイクロスコープを使用して再治療すれば何でも治すことができる!!という先生は再治療を選択するだろう。

しかしこれは常識的に考えて外科治療である。

では外科治療を行うとしてどのようにこれを攻めるだろうか??

私なりに術前に考察し、患者さんに説明した。

ちなみに左上2(#10)にCold testを行うと反応があった。したがって#10から問題が生じている可能性は低いと思われる。

ということで私は患者さんに以下の可能性を告げた。

  1. 根尖病変が側方へ波及
  2. 側枝の可能性

しかしながら真実はこの時点ではわからない。実際に外科で見てみるしかないからだ。

というわけで外科治療が行われた。

すると…

VRF(Vertical Root Fracture)である。

VRFがこの患者の歯茎が腫脹していた問題であったのだ。

しかし術前の歯周ポケットは正常であったのだが…

そう正常であった部分の下からVRFが発生してしまったのだ。

さて、このような状況であなたは治療をどのように行うであろうか??

アメリカであれば見た瞬間抜歯である。Compromized Toothだからだ。

しかしここは日本である。

粘るとすればどのような方法だろうか?

私の提案は

  1. 破折している部位を除去してBiodentineで埋める
  2. 破折しているところまで切断して動揺度を見てみようと提案した。もしかすると動揺はそれほど発生しないかもしれない

しかしこの歯科医院にはBiodentineがないので、結果的に2を行うこととなった。

ということで、破折している部位まで歯根を切断した。

その時点でこの歯の動揺度はWithin normal limitであり、術前のポケット測定でもNormalな歯周ポケットであったので患者さんと協議し、この歯を保存することとした。

逆根管形成・逆根管充填を行なった。

治療後のPAである。歯根はかなり短くなってしまったが動揺は全くない。

ちなみに治療後に破折した歯を観察した。すると…

VRFは歯根の途中から始まっていた。

いわゆるVRFの下図の一番左のパターンである。

AAE(米国歯内療法学会)によれば、VRFには以下のような特徴があると言われている。

Vertical Root Fracture

Vertical root fractures are cracks that begin in the root of the tooth and extend toward the chewing surface.

歯根から始まり、歯根から歯冠部へ向けて破折線が進展する。

絵に描けば以下のようにイメージできる。

They often show minimal signs and symptoms and may, therefore, go unnoticed for some time.

VRFには症状がほとんどない。それゆえ一定期間無症状で進行する。

Vertical root fractures are often discovered when the surrounding bone and gum become infected.

VRFは周囲の骨や歯肉が感染すると発見されることが多い。

Treatment may involve extraction of the tooth. However, endodontic surgery is sometimes appropriate if a tooth can be saved by removal of the fractured portion.

治療は抜歯、または破折した部分を外科的に取り除くことができるのであれば外科治療が時として適切であると思われる。

ということでこのケースでは破折している部分を外科的に取り除くことに成功したのである意味適応症と考えられる。

さてこの歯が何年持つだろうか?それは残念ながら誰にもわからない。

しかし私は30歳そこそこの女性の患者さんにとてもインプラント治療など勧めることはできない。

補綴治療が終了して歯茎が腫れるまで一度もこの歯科医院に現れていないのだ。

そんな患者さんにインプラントができるだろうか??

もちろんうまく行くかもしれない。しかしながらこの妥協的な治療でも臨床的な問題が起きていない。

要は、答えは時間が経たないとわからないのだ。

次回は抜糸で1週間後、その後6ヶ月検診、そして1年後の検診にいらっしゃる予定である。

そこでまた経過を追ってみたいと思う。