以前にも紹介したことがある患者さんの治療の内容の説明を昨日、行った。

私が2011年に治療した患者さんである。

県外からわざわざいらっしゃった患者さんであった。

当時の主訴は

右下奥歯が死ぬほど痛い…保存(根管治療)可能か?

であった。

結論から言うとこのホームページでも何度か紹介した患者さんで経過は非常に良好だったが、最近は調子が悪いと言われていた。

そう。あれは、ポストコアをレジンからメタルでやりかえてからだ。

だが、この現状は私にとっては非常に複雑な気持ちである。

私は多くの人(歯科医師)に問いたい。

”冠が外れることはいけないことなのか?”と。

そして、

”あなたはメタルポストコアを使用するのか?”と周りにいる知り合いの歯科医師に聞いてみた。

すると、質問した歯科医師は全てGPであったが以下のように回答をくれた。(n=4)


歯科医師A:全部は防げないが、歯牙が割れないようにという観点も(ポストコアを設置する時には)考えてもらいたい

歯科医師B:「歯の生存」であるべきエンドポイントが、「補綴の長期維持」に置き換わっている。補綴ばっかりやってたら脳がそうなるのか、あるいは責任回避ではないだろうか?

歯科医師C:歯頸部歯質が無い場合、フェルール獲得の為に①歯冠延長術のみか②部分矯正で挺出と歯冠延長術を合わせて行う。基本的には①で対応するが、それが出来ない場合にはグラスファイバーの数を増やして接着を頑張る。最近はメタルを使用していない。フェルールがあれば、尚更いらない。

歯科医師D:ポストだが、個人的にはもうメタルポストは10年くらいやっていない。が、私も留学中補綴科のドクターに聞いたところ、ファイバーポストはやっていなかった。というよりレジンコアがかなりまれ、という状況であった。接着を信じてない、ということと、ポストの種類よりも残存歯質量が重要である、という考え方のためであったようだ。レジンコアも大変稀のようで、便宜抜髄くらい歯質が残っていないとしてなかったようだ。蓋をする、くらいの症例のみであった。とは言っても、ここは日本なので、フェルールがないからと言って全て抜歯するわけにもいかない。私は個人的にメタルポストはしないが、やはり残存歯質量が一番大切だとは思っている。


ということで解答を得られた4人の歯科医師が全てメタルポストに否定的な意見であった。

それよりも残存歯質量が重要であると言う意見が大勢を占めていた。

私はといえば…

今まではフラットであった。

が、その考えを変える出来事があった。

以下の症例である。

患者さんは県外から来られた方でひどく痛いという。

今すぐにみてもらえないか?と要請された。

暇な歯科医院であったので、どうぞと答えると本当に県外から車でやって来られた。

患者さんに話を聞くと…

居住されている地域の複数の歯科医師からは全ての歯科医師が

保存は不可能である。抜歯しかない。

と宣告したという。

今回、この患者さんの過去の歴史があるかどうか?古いHDを探すと当時の光景が蘇ってきた。

口腔内写真などがHDに残されていたのだ。

ちなみに患者さんはオープンバイトである。

矯正治療も勧めたが歯が痛くてそれどころではない。

ということでまずはこの歯の治療に取りかかった。

#31の仮封はFit sealであった。

簡単に除去すると以下のように歯質は残存していた。

確かにお世辞にも大量に歯が残っている!とは言えないが全く存在しない!とも言えない。

PAを撮影した。

治療前に以下の同意書に目を通していただき、再根管治療が開始された。(懐かしい…)

貧乏人の息子の私がなぜアメリカへ留学できたか?と言えば、その当時(2011年当時)からこのような契約書にあるような事実を認識していたからである。

でなければ、貧乏人の息子の私がアメリカなどに行けるはずがないだろう。

再根管治療へと移行した。

麻酔をかけて、ラバーダム防湿し、再根管治療を行った。

遠心は穿通している。

折れたファイルも除去した。

この除去は容易なことである。

なぜか?と言えば、ファイルが折れているのが根の中央だからである。

根管口から折れたファイルは見えていた。

ポイント試適した。

問題がない位置にGutta Percha Pointはきていた。

とここで貼薬を行い初日の治療は終了した。

応急処置だからである。

水酸化カルシウムで貼薬して仮封した。

日を改めて、再根管治療が行われた。

痛みは嘘のように消失していた。

日付は覚えていない。

その日に根管充填して、レジンで支台築造した。

この後、プロビジョナルレストレーションを装着した。

当時の記録が残っていた。

私のPrepが信頼たるものであったか?は以下のように当時から確認していた。

今となっては何をやっているのか?さっぱりわからない。

私はもう補綴治療の知識がないのだ。

確かプレパレーションの厚みを確認していたと思う。

セラミック系修復物を装着するのであれば十分な削除量であった。

このように当時から確認しながら治療を行っていた。

懐かしくてつい掲載してしまった。

が、もちろん今はこのような治療を行なっていない。

もう方法も忘れた。

遠い過去である。

これで患者さんから感動&信頼されてその周囲の歯も再根管治療し、レジンで支台築造した。

その後、PFM Crownを装着した。

2013年のことである。

私が最後に補綴治療を行っていた時だ。

ここから約10年が経過したが、ここに至るまでの経過を報告しよう。

2017年(再根管治療後, 7年経過)

患者さんには何の問題もなかった。

2018.2.14(再根管治療後、8年経過)

この時より、クラウンが外れてしまうようになった。

私が入れたレジンコアが接着がもたなかったようである。

が、2018年は私はすでに補綴治療をしていないので補綴の先生に紹介した。

そこで、レジンコアはだめでメタルコアを入れるように説得された。

その後は以下のようになる。

2020.12.23(再根管治療後、9年経過)

この時から痛みまではないが、違和感があると言われるようになった。

しかし、痛みはないので特別CBCTなどを撮影することもなかった。

そしてこの翌年、またまた経過を見せにきていただけた。

この時は、痛い時もあるが生活に支障はないということであった。

2021.12.8(再根管治療後、11年経過)

この近心の部分の黒い部分が気になった私は、CBCTを撮影するように患者さんに指示した。

さて患者さんから得たCBCTを見た私は驚愕した。

その画像が物語っているのは、

破折か?

穿孔か?

が疑われる。

しかし、それは残念ながら直接見ないとわからない。

そして、かかりつ医から

歯牙が破折しているかもしれない

という衝撃の事実をメールで告げられた時は非常に心苦しかった。

そしてここで私は、周囲の歯科医師に上述した質問をしてみたところ(N=4)、メタルポストコアを入れるという歯科医師は一人もいなかった。

自分が装着したクラウンが外れることは、歯科医師人生で負けなのだろうか?

私はそうは思わない。

事実、この患者自身もそうだった。

一括りに患者をするような歯科治療をしているとこのようなトラップに引っかかってしまう。

いただいたCBCTを見ると破折?というよりは私は穿孔を疑った。

事実は内部を見てみないとわからない。

次回、クラウンを外して(外したくないが)、メタルポストコアを除去して、歯牙の内部を見てみようと思う。

その際、割れていても患者さんは保存することを希望している。

これが、現状の日本である。

インプラントは忌み嫌われている。

正しく保存することは厳しいという事実が伝わればいいが、おそらく無理だろう。

最後にもう一度。

自分が装着したクラウンが外れることは、歯科医師人生で負けなのだろうか?