紹介された患者さんの治療。
主訴は右下臼歯部の咬合痛。
歯内療法学的診査は以下になる。
#29 Cold+3/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#30 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(++), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)
#31 Cold+3/4, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
PAは以下になる。
Pre-op PA(2022.6.4)
Sinus tractがあったため、Gutta Percha Pointを挿入してPAを撮影した。
Sinus tractの原因根管がわかるはずだ。
Sinus tractの原因根管は遠心根であるとわかる。
ここは尖通が必要だ。
と同時に少なからず外科治療へ移行する可能性もある。
CBCTを撮影した。
Re-RCT前 CBCT(2022.6.4)
下顎孔は#29の真下にある。
事故が起きる可能性はかなり低いだろう。
さてこのブログを読んでいるあなたはもう一つこの症例の重要な事実に気が付いただろうか?
歯と歯の間にあるもう一つの歯根である。
そう、Radix Entomolarisがこの歯には存在していたのだ。
Calberson 2007 The Radix Entomolaris and Paramolaris: Clinical Approach in Endodontics
舌側に存在するもう一つの大きな歯根はRadix Entomolarisを表している。
いわゆるこの絵である。
さて、CBCTを見てみるとこの歯のRadixには根尖病変が存在しているようである。
それぞれの根管を見てみよう。
M根
根尖病変がある。ということは尖通が必要である。
しかし尖通できるだろうか?
また、CBCTからMLとMBは合流しているように見えるだろうか?
私にはそのようには見えなかった。
それぞれが独立している?根管??なのかも???しれない。
また下歯槽神経はApexよりもかなり下方にあるのでシーラーがパフしても問題はないだろう。
D根
D根はSinus tractにGutta Perchaを挿入するとその歯根の先に到達する。この患者さんの主訴の根管である。必ず攻略しなければならない。
さて、攻略できるだろうか?
本来の根管よりも頬側にそれて根管充填がなされている。
トランスポーテーションしたのだと思われる。
ここがKeyである。
全ての根管の中で最も先に手をつけなければならない部位であろう。
ここが穿通すれば患者さんの主訴がなくなる可能性が高い。
穿通しなければ…それでも治癒する可能性はあるが成功率は低くなってしまう。
何よりも重視しなければならない根管だということがわかる。
60%か90%か…尖通が鍵を握っている。
Radix Entomolaris
次にこの歯の悩みの種、Radixである。
根尖病変が存在する。
しかしながら、下歯槽神経は遥か下部である。
シーラーパフしても問題はないだろう。
それよりも問題はどう形成するか?である。
いわゆるストレートに根管にアクセスしようとするとファイルは凄まじい方向に挿入しなければならなくなる。
破折が起こりやすい案件になる。
こうした場合、
私はReference pointをいつも舌側とは反対の頬側に設ける
ことが多い。
その方が根管形成しやすいからである。
あとでその意味は説明しよう。
ということで診断は以下のようになる。
#30 Pulp Dx: Previously Treated, Periapical Dx: Chronic apical abscess, Recommended Tx: Re-RCT+Core build up
再根管治療を提案したのは前医が拡大を#25までしか行っていないからである。
しかも根尖部はあまり触っていないように感じた。
感染根管であれば#35~40といったところが平均的な拡大サイズ(MAF)である。
ということで私は再根管治療を患者さんに提案した。
60%か90%…二者択一の治療である。
さて、これが外科になった場合はどのような治療になるか?それも説明の必要がある。
あなたはどうやって尖通しないかもしれないRadixへアプローチするだろうか?
Radixへ到達するまで歯槽骨を削るのか?と言えば、私には無理である。
ではどうするか?だが、その際はFlapを開けてM,DをApicoectomyしてから抜歯してIntentional Replantationを行うと告げた。
もちろんそんな大変な治療などやらないに越したことはない。
しかしどうなるか?はわからないのだ。
最悪も告げておかなければならないのでそれを説明した。
以上から患者さんが治療計画に同意されて再根管治療が開始された。
Re-RCT(2022.6.4)
☆以下、再根管治療の画像や動画が出ますので気に入らない方はSkipをお願いいたします。
ジルコニアクラウンを某バーでチャンバーオープンし、再根管治療は行われた。
ここにかかるコストは数百円だ。
さて再根管治療の順番は、
D(尖通必要)
ML(尖通必要)
MB(尖通必要)
Radix(尖通必要)
である。
まずSinus tractの原因であるD根から攻略を開始した。
①D根の攻略
Gutta PerchaをSXで除去しながら根管上部を拡大しながら再根管治療が行われた。
この時私が注意したのはどのようにして尖通を試みるか?である。
現在の私の穿通プロトコールは以下である。
C+10⇨C+8⇨C+6⇨C10⇨C8⇨C6⇨Ni-Ti Rotary Fileの使用(メカニカルグライドパス;HyFlex EDM #10.05⇨RaCe EVO #10.04⇨#10.02)
こうしたことを頭に入れながら尖通を試みたが、結局手用ファイルで尖通は不可能であった。
ということでRotaryに頼ることになる。
HyFlex EDM #10.05⇨RaCe EVO #10.04⇨RaCe EVO #10.02を経てようやく穿通した。
動画はRaCe EVO #10.04を使用しているところから始まっているだろうが、ここで頭を使用しなければいけないのは(あるいは世間からよくある質問は)
一体C Fileの#6(テーパーは.02)で穿通させてどうやってロータリーファイルを使用するのか?
という疑問だろう。
しかし、この時点でApical Foramenは#10.02である。
どうやってNi-Ti Rotary Fileを使用しろというのだろうか?といえばここで理解しておかなければならないことが
”テーパー”
である。
テーパーがわからなければ非外科的な歯内療法は制することができない。
わからなければ、わかるように教えてくれるセミナーに出ればいいだけだ。
なお、この時点でApical Foramenは#10.02である。
ここからC Fileを2mm突き出すとApical Foramenは何号になるだろうか?
テーパーがわかっていれば実に簡単な話である。
そしてもう一点は、2mmもC Fileの#6を根尖孔外へ突き出させてもいいのだろうか?
根尖がぶっ壊れるのではないだろうか?
これらはBasic CourseのIrrigationの際(Patency Fileの際)に解説する予定である。
結論から言えば問題はない。(また時期を見てこの話は解説しよう)
ということで根管形成を行った。
#10.05を根管に挿入した。さてこのファイルは最初から使用する必要性があるだろうか?
以下の絵がそれを表している。
ポイントは
Rotary Fileを作業長まで長さを測り回転させずに根管に挿入することだ。
この時のRubber stopまでの形成距離がその根管が形成しなければならない根管形成量であるとわかる。
ラバーストップまで到達すれば、そのファイルで形成する必要はないだろう。
到達しなければ、もちろん形成が必要になる。
ちなみにこんなことにエビデンスはない。
あなたが臨床でどれくらいまで形成すればいいか?の目安になるだけだ。
これを#50.03まで行った。
この部位はHyFlex EDM#50.03まで形成した。
穿通したこと、拡大号数が#25⇨#50.03であることから勝利(治癒)の可能性が高いと思われる。
②ML⇨MBの攻略
次に手をつけたのはMLである。
理由は一般的にMLの方がMBに比べて湾曲が少ない(直線的である)からだ。
MBは湾曲が大きいのでなるべくMLに合流してほしいと願っていつも私は治療をしている。
今回はどうだっただろうか?
結論から言うとMLは尖通できなかった。
Rotaryも使用したが尖通は不可能であった。
となると…鍵を握るのはMBだ。
だが、MBは湾曲が強い根管で尖通は一般的に難しい。
が、C Fileの#6で尖通した。
またしても私はそれをApical Foramenから2mm突き出した。
そうすることでこの後の形成ができるようになるからだ。
#10.05を挿入した。
このような作業を通して私は最終的に#40.04まで形成した。
③Radixの攻略
さてこの歯には懸案のRadixが存在する。
私はRadixがある時はいつも以下のようにストレートラインアクセスを作成している。
C+10でRadixは何と尖通した。
まさか…拍子抜けだった。。。
形成したアクセス窩洞にラバーストッパーを置いた。
RadixはHyFlex EDM #40.04まで形成した。
それから全ての根管をPatency Fileしてポイント試適を行った。
以下がPAと作業内容になる。
Point TF(2022.6.4)
BC sealerで根管充填を行った。
Root Canal Obturation(2022.6.4)
シーラーパフの存在は根管を緊密にパッキングできていることの証明である。
以下のPAがそれをよく示している。
ということでこの後、支台築造まで行い治療は予定通り1回法で終了した。
さて治療の予後の見通しはどうだろうか?
Sinus tractの原因根管であったD根は尖通させたのでここは問題が出ないかもしれない。
それ以外も尖通していたので問題は少ない。
つまり私が思うにこの症例はきっと90%の治癒をしてくれるだろうと信じている。
また半年後にご報告したい。