紹介患者さんの経過観察。

Re-RCTから1年が経過していた。

Sinus Tractを有する歯の再根管治療〜Intentional Replantationを避けられるか?#18 Re-RCT+Core build up


初診時主訴(2022.5.13)

歯を長く残したいが、左下奥歯にできものがあり、出たり引っ込んだりしている。痛みはないが…

であった。

初診時歯内療法学的検査(2022.5.13)

#18 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-),BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus Tract(+)

#19 Cold+3/4, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#18にはSinus tractが存在する。

長期にわたる感染があることの証左である。

また咬合痛も再現できていた。

適切な治療をすれば主訴は改善する可能性があるがSinus tractの存在が頭を悩ませる。


☆以下、検査動画が出てきます。不快に感じる方は視聴をSkipしてください。


嫌な感じだ。

外科治療へ移行する可能性がある。

外科になれば、Intentional Replantation。

Sinus tractがなければ…と思わずにいられない。

初診時PA(2022.5.13)

Sinus tractにGutta Perchaを挿入すると遠心根に到達した。

ここが原因で歯茎が腫れていると考えられる。

初診時CBCT(2022.5.13)

MB

MBの根尖部には病変がある。

この根管は穿通が必須だ。

しかしそれができるかどうか?はやってみないとわからない。

ML

MLにはそれほど大きな病変はなさそうだ。

が、穿通をしなくていいわけではない。

それほど大きな病変ではないことがわかる。

D

Dの歯根周囲にはJ-shaped lesionがある。破折を疑われる案件だ。

が、何度も言うように

破折しているかどうかは、直視でそれを確認しなければわからない。

前医の根管形成・根管充填は舌側に変移している。

これでは良好な治癒は得られない。

が、根管形成で修正ができれば勝つことができるだろう。

それは…

何度も言うように、CBCTを撮影してもそれができるか?はわからない。

実際に修正できるかどうか?は再・根管形成してみないとわからないのである。

初診時歯内療法学的診断(2022.5.13)

Pulp Dx:Previously treated

Periapical Dx:Chronic apical abscess

Recommended Tx: Re-RCT

どの根管も根尖部の形成が甘い…

ということで再形成で治癒する余地は高いと判断し、非外科的・再根管治療となった。


☆以下、治療動画/画像 が出てきます。気分を害する方は視聴をSkipしてください。


#18 Re-RCT(2022.6.8)

治療内容は以下である。

支台築造して、PAを撮影した。

#18 Re-RCT後 PA(2022.6.8)

問題はないと思われる。

シーラーパフがその証左だ。

ちなみに…

MB根にはファイルを破折させてしまった。

が、それは予後には響かないものであることは治療前にすでに説明してある。

なぜか?と言えば、

当歯科医院ではHyFlex EDMをOne useで廃棄しているからだ。

なので再利用はない。

この日本の中でそういうことを徹底している歯科医院がどれほどあるだろうか?

私はそうした話を聞いたことがない。

ちなみにHyFlex EDMは、以下のような状態で納品されている。

なので何のトラブルもそこにはない。

まさに、

”高級根管充填材”

だ。

次は1年後の経過観察だ。


あれから1年経過している。

治療はどのようになっただろうか?

#18 Re-RCT 1yr recall(2023.7.3)

歯内療法学的検査(2023.7.3)

#18 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#19 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

Sinus tractは1年経過して消失した。

根管形成と患者さんの免疫力が細菌を打ち負かしたのだ。

また、ファイル破折でMB根は穿通しなかったが、画像的にはどうだろうか?

PA(2023.7.3)

初診時に存在していた病変は消失した。

ファイル破折を起こしたMBも問題がなさそうだ。

が、これはPAだ。

CBCTも見てみよう。

CBCT(2023.7.3)

MB

術前にMBに存在していた根尖病変は消失した。

しかもFile破折を起こしたにも関わらず、だ。

再根管治療が奏功したのだ。

なぜか?と言えば、術前に(前医が)ほとんど根尖部を形成していなかったからである。

また患者さんの免疫力だろう。

それらが細菌の毒性を駆逐した。

だから勝てたのだ。

ML

MLの根尖部に存在していた病変も消失した。

かなり治癒がいい。

歯槽骨の吸収はもうない。

ここも問題が消失した。

D

若干、遠心根の近心部分に根尖病変が残存しているが、ほとんど歯槽骨は回復している。

Sealerが出ているにも関わらずだ。

遠心のLesionもほとんど消失していた。

再根管治療が奏功したのだ。

また、患者さんは、既に矯正治療を行っていた。

が、根尖病変があっても矯正は可能である。

もちろん、それにエビデンスはないが。。。

ということで治療前と治療後を比較した。

治療前(2022.5.13)vs 1yr recall(2023.7.3)

素晴らしい治癒具合だ。

これで当初の私の役目は果たせたといっていいだろう。

が、再根管治療なので4年は経過を見る必要がある。ここから何かが起きないとは限らないからだ。

さて。

なぜこの患者さんはこんなに治癒が良かったのだろうか?と言えば、私はこの手の話ではいつも

Siqueria 2008 Clinical implications and microbiology of bacterial persistence after treatment procedures

の文献が頭に浮かぶ。

ということで、次回はさらに1年後である。

また状況を皆様にお伝えしたい。