紹介患者さんの治療。

主訴は、

20年くらい前に神経を取って被せた右上の前歯が痛い。歯ブラシが歯に当たっただけでも痛む…

であった。

患者さん曰く、20年前に前歯の神経を除去し、セラミッククラウンを被せたという。

この前歯では昔から悩んでいるそうだ。

痛みが出ては消え、出ては消えを繰り返しているという。

早くこの問題から解決したいとのことであった。

歯内療法学的検査(2023.11.28)

#7  Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(++), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(?)

#8  Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(?)

#9  Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(?)

#10 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(?)

主訴が再現されていた。

圧痛がかなりある。#8でなく、#7のようだ。

また、

PFM Crownは全て連結されていた。

したがって、歯牙に動揺があるかは判断ができない。

通常、連結する場合はその歯牙単独では動揺が強く、保存が厳しい場合に、健全な歯と連結する

と言われている。

私は、そう藤本研修会 補綴咬合コースPart1で藤本順平先生に教わった。

が、この方にそれが当てはまるだろうか?

歯周ポケットもWithin Normal Limitだったのである。

ということは…

嫌な予感がする。

PA, CBCTを撮影した。

PA(2023.11.28)

不適合極まりないクラウンが装着されている。

これらは…全てPFMだ。

日本の歯科治療の法則をこのBlogをご覧の患者さんに教えよう。

PFM(メタルボンド, セラミッククラウン)の内部には、適当な根管治療がなされている

という事実を。

内部はなんでもいいのだ。

“金”さえ手に入れば。

しかしだ、

それが正しい歯科医療だろうか?

そして、あなたがどれだけ蓄財しようと、

何度も言うように、金はあの世には持っていけないし、

残しても、残された人間の意思でそれがどう使用されるか?は決まる

のだ。

あなたはその時、この世にはいないのだから。

遺言でも書くのだろうか?

私はそんなことをして相続人を縛り付けてやりたい!とは思わない。

CBCT(2023.11.28)

#7

根尖部には若干病変があるが、

根尖病変だ!

というはっきりしたものはない。

が、痛みがある。

このケースから、私はかつての以下の症例を思い出した。

根尖病変はないが…様々な症状が。患者がおかしいのか?それともあなたがおかしいのか??#29 Re-RCT3年2か月経過症例から学べること。

この時、勝負に勝ったのは、

患者さんの主訴を再現できたこと

根尖部までの形成がなされていないという事実があった

ことだろう。

翻って、今回のこの症例はどうだろうか?

といえば、

主訴が再現されている。圧痛に反応があるのである。

根尖部は…形成されているようなされていないような…それはわからない。

形成されていなければ…勝てる可能性がある。

が、不適合冠の存在はそれ以上にこの治療の予後に影響を与える可能性が高いだろう。

ということは…

Apicoectomyを行うよりも、再根管治療の方が分があるかもしれない

と私は考察した。

その他の歯の(#8,9,10)状況もCheckした。

#8

#9

#10

#8,9,10の状況は#7と変わりがないように見える。

つまりCT所見では、

根尖部は…形成されているようなされていないような…

感じである。

再根管治療が奏効するか?といえば、#8,9,10には主訴がないし、根尖病変がないので奏効する可能性は高いだろう。

診断と推奨される治療は以下である。

歯内療法学的診断(2023.11.28)

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis(#7のみ。それ以外は、Normal apical tissues)

Recommended Tx: Re-RCT

ということで推奨される治療は再根管治療である。

4本を同時に、1回法で全て終了するという治療計画を立てて、別日に治療へ移行した。


⭐︎以下、治療動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。


#7,8,9,10 Re-RCT(2023.12.8)

PFMを除去するため、バーが死ぬほど必要だ。

すぐ切れなくなる…

頭が痛いが仕方がない。

それが歯科医療だ。

術後(#7,8,9,10除去後)、以下のような本数を使用していたことが分かった。

4本除去するのに、除去バー11本使用…

勤務医なら叱られるだろうか?

が、削れなくなるから仕方がないのである。

削れない…

新品が欲しい…

新品を使用したら院長が怒る…

こういう葛藤の中の歯科医療とは歯科医療だろうか?

私なら、

それを使用することに文句があるなら、あんたが除去しろよ

と言わずにはいられない。

保険診療(世界一の低医療費)では道具の使用方法にさえ上部からの統制が入る

のだ。

これを読んで、その通り!と思った方、あなたはその歯科医院を辞める時です。そして、早く学習して、鍛錬して、自立して自分でやりましょう。

さておき、話を戻そう。

次はメタルポストコアの除去だ。

メタルポストコアの除去は、Pathway’s of the Pulpにある通りだ。

ポスト部から連続するコアの大部分を除去し、ポストから一続きの形態にして、超音波を当てる。すると振動でポストコアは外れる。

特にこのポスト部から連続するコアの大部分を除去し

という文言が臨床的には重要だ。

それをどう判断しているか?は下の動画でわかる。

本当だろうか?

使用する道具は、

EndoGuide Bur

除去バー

VPチップ

である。

EndoGuide Bur以外は日本で手に入る。

次に#7のメタルポストコアを除去した。

どうすれば、残存歯質を温存してメタルポストコアを除去できるだろうか?は以下の動画でわかる。

結局、再根管治療は器具に依存する。

器具がなければ、除去ができないか悲惨な状況で除去が行われることになる。

さすれば…

患者さんが痛い思いをする。

それを防ぐには、

投資する

しかない。

そして、

保険診療から離れるしか、真の歯科医療は追求できない

のだ。

事実、除去には2分しかかかっていない。

同じように、#9,10のPFMとメタルポストコアも除去した。

#9は…

指で取れた。。。

私の人生で初のことだ。

指で外れるメタルポストコア…

深い。。。

#10は切削してセメントラインを出してVP-tipを当てた。

以下の動画は早送りをしていない。

リアルな長さだ。

実に2分で外れている。

これに金をとった方がいいんじゃないのか?という人もいるが、それはうちの歯科医院が患者さんから請求することは今後もないだろう。

その後、再根管形成を行なった。

その結果は以下である。

再根管治療は、Gutta Percha Point試適との戦い

という私の言葉の意味がわかるだろうか?

#8に至っては根尖部が吸収されており、アピカルストップも作れない。

ということは…そう。

みんな大好き?MTA根充(というなのBC sealer+BC putty根充)だ。

術後のPAは以下になる。

#7,8,9,10 Re-RCT後 PA(2023.12.8)

問題はないと思われる。

CTも撮影した。

#7,8,9,10 Post Re-RCT CBCT(2023.12.8)

#7

#8

#9

#10

この結果がどうなるか?は誰にもわからない。

うまくいけばこれで終了、最終補綴へ。

うまくいかなければ、Apicoectomyへ移行。

という流れである。

次回は半年後である。

また詳細をご報告したい。