紹介患者さんの治療。

主訴は、

左下奥歯が沁みる。物が噛めない…

である。

歯内療法学的検査(2025.1.31)

#18 Cold NR/20, Perc.(+), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#19 Cold+1/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#20 Cold+1/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

主訴の歯はCold test に既に反応がなく、打診痛と咬合痛のある#18のようだ。

PA,CBCTを撮影した。

#18には根尖病変のような物が見えるが判然としない。

CBCTを撮影した。

#18 MB

#18 ML

#18 D

CBCTで見ると、#18のM,DのApexが実に嫌なところに存在していることがわかる。

パフなど得ようものなら…

患者さんは違和感の連発だろう。

それがこのケースは不要であるし、すれば危ないことになることがわかる。

この一連の情報はやはりCBCT でなければ得られない知識である。

もはや、それなしで歯内療法を行うことは危険過ぎると言っていいだろう。 

歯内療法学的診断(2025.1.31)

Pulp Dx: Symptomatic irreversible pulpitis

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: RCT

ということで、同日に治療へ移行した。

⭐︎この後、治療動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。


#18 RCT(2025.1.31)

この治療のポイントは合流根管の合流地点の確認のみである。

ということで、根管形成後に根管充填し術後にPA, CBCTを撮影した。

問題はないだろう。

根尖病変もないのでかかりつけ医の先生には最終補綴OKの連絡をした。

この後、最終補綴が装着されるのだが、治療4ヶ月後のある日に、この患者さんから以下のような連絡があった。

治療したところが痛くて物が噛めないので見てほしい。。。

患者さんには、急患で来院していただいた。

#18 RCT 4M recall(2025.4.28)

生活歯である#19,20は同じリアクションであった。

そして懸案の#18には何の症状もない。

患者さん曰く、

今は落ち着いた

とのことだ。

が、

ひどい時は何もしてなくても痛いし、

物も噛めなかったし、

歯牙を触れるだけで激痛だった

という。


⭐︎Symptomatic Irreversible Pulpitis時の一般的な症状

① Spontaneous pain – occurs without a trigger.

② Lingering pain – pain lasts for several minutes after exposure to hot, cold, or sweet stimuli.

③ Severe, throbbing pain – often described as intense and difficult to localize.

④ Pain that worsens at night or when lying down.

⑤ Difficult to relieve with painkillers.

⑥ Possible referred pain – discomfort may radiate to the ear, jaw, or adjacent teeth.

⑦ Tooth may be tender to percussion (tapping) – especially if inflammation has spread to surrounding tissues.

⑧ No visible swelling in early stages – swelling may appear later if it progresses to a periapical abscess.


この患者さんは上記の8項目のうち、4項目も該当していた。

これらは、Perに見られる症状でなく、Pulの歯に見られる症状である。

そのことからも、治療した#18に何かしらの問題が出ているとは考えにくいのである。

PA,CBCTを撮影した。

#18には何の問題も起きていなかった。

では、その周囲の特に怪しんだ#19は?といえば、

近心は歯髄に近接するような形成が既になされていた。

ここが怪しい…

が、この日はその症状が出せなかった。

歯内療法では、

患者の主訴を術前検査で再現できなければ問題は解決できない

とされている。

その意味でも検査は重要だ。

そして、既に症状が収まっているなら治療の必要性がないのである。

ということで患者さんには様子を見てもらうようにした。

しかし…

この患者さんのかつてあった痛みは何だったのだろうか???

が、それよりも重要なことは、

主訴の再現なしに歯内療法はできない

という臨床的事実だ。

冷たいものに染みるなら、神経とっときましょう!などというDQN対応は考えられない

のである。

ということでまたこの患者さんの予後はお伝えしたい。