昨日はZoomを用いてCurrent literature review 2021.10月編が行われた。

参加者は全部で8名。

いままでこのセミナーをやって8名も集まったことがなかったので正直びっくりしていると同時にエンドに興味がある人が全国にはいるんだなというのを認識させていただいた。

しかしながら、、、、、

論文は1人で読むと辛い。

しかし仲間がいれば辛さを共有することができるし、何より簡単になる。

ということでこの論文抄読会のルールは論文をきちんと読む参加者を募り、

“自分の担当論文はきちんと仕上げてくること”

である。

他人のは読んでいなくてもそれは当然だ。

なぜか?と言えば、他人の論文を抄読する時間などないからだ。(と言っても1ヶ月にたった5本〜6本だが…)

が、私はこのセミナーの前に全ての論文に目を通している。

そう。

その文献抄読会を仕切る専門の知識を持ったものの存在も必要である。

以下、この日の模様を解説していこう。


Souza 2021 Mapping the periapex anatomical pattern of teeth involved in sodium hypochlorite accidents: a cross-sectional quasi-experimental study

ヒポクロアクシデントの研究である。

どのような時にヒポクロアクシデントが起きるのか?解剖学的な背景を考察したものである。

一般的なヒポクロアクシデントを防ぐためのルールが存在するにもかかわらず実は誰にでも起きる事故ではないというのがこのアクシデントの特徴である。

AAEの会員は

  • 上顎で起きる
  • 適切に洗浄をしているにもかかわらず起きる

としているのでなぜそれが起きるのか?については諸説があるが、この文献では歯の解剖学的要因を考察した研究である。

解剖学的要因とは何か?と言えば、フェネストレーションである。

フェネストレーションとは根尖部が歯槽骨から抜けて頬粘膜に突き出した状態になっている状態の歯を言う。

これの関与を追求した論文である。

27Gのニードルで洗浄しているのはヒポクロアクシデントをより発生しやすくするためのコツなんだろうか?

結果、

このようにヒポクロショックが起きるという。

解剖学的背景がこの悲惨な事故に関与している可能性が高いと言う。

確かに。

古い研究だが、Salzegeber 1977では根管拡大を一定程度以上行うとNaOClがこのように根尖部に大量に溢出している。

にもかかわらず、ヒポクロアクシデントは起きていない。

が、術後疼痛は多くの確率で起きる。

これはヒポクロが根尖部から溢出したのが原因ではと考えられている。

ということでCBCTの利用は不要な事故を防止するために非常に有用な可能性があるかも知れない。

と言うことは、これからの歯内療法臨床ではCBCTの撮影がマストになる可能性があるだろう。

とはいえ、この世の中で歯科臨床においてCBCTを保持していない人はほとんどいない。

と言うことは知識として知っておけば未然な事故が防げる可能性が高いと言える。


次に読んだ文献は日本人が書いたものである。

私はこの著者と面識が全くない。

いわゆる雑誌の中の人である。

Terauchi 2021 Factors Affecting the Removal Time of Separated Instruments

一読して全員に感想を聞いたがこの先生のセミナーに出席しているかのような体験ができた。

と言うことで興味がある方は目を通していただきたい。


次に読んだ論文は

Haxhia 2021 Root-end Surgery or Nonsurgical Retreatment: Are There Differences in Long-term Outcome?

である。

再治療と外科的歯内療法の生存率を算出している。

治療は全てAAEの認定歯内療法専門医が行っている。

あなたの近所にある、

”エンドの得意な自称専門医”ではない。

これは今までにない取り組みだ。

結果は以下のようになった。

6年生存率は再治療も外科治療も変わりがない。

つまり、どっちの治療でもその歯は残存している、と言うことを示している。

(ただし、これは成功率ではない。)

ここに日本の患者に対するメッセージ込められている。

歯内療法をするなら、本当のプロにしてもらいましょう

と言う事実が。


最後が、

Aggarwal 2021 Comparative Evaluation of Dentinal Microcrack Formation before and after Root Canal Preparation Using Rotary, Reciprocationg, and Adaptive Instruments at Different Working Lengths -A Micro-computed Tomographic Study

である。

使用するNI-Ti Fileによってクラックは優位に増えるのだろうか?

下顎大臼歯の近心根(合流していないもの)MB, MLに対して各種Ni-Ti Fileを使用してマイクロクラック発生の有無を調べている。

ただし最終拡大号数はそれぞれ#25である。

拡大形成後にマイクロCTにて形成前後の評価をしている。

結果は以下のようになった。

よくこのスライドを読んでいただきたい。

根管形成前にも検体となる歯にマイクロクラックがある(25.7%)と言う事実を。

根管形成後にそのマイクロクラックは31.87%に増加しているが、優位差はない。

それ以外では以下の事実が臨床で重要であろう。

この文献では作業長を変化させてもマイクロクラックの増加に寄与しなかったとされている。

これは私が以前記した根管形成と破折に関するものと内容が異なっている。

以下である。


http://fukuoka-endodontist.blogspot.com/2015/11/ni-ti.html

Ni-Tiロータリーファイルが市場に出現して以来、根管治療のスピードや効率は格段に進歩した。(1,2)

またその柔軟性からハンドファイルでは医原的な変異を作っていたがために達成が困難であった、”根尖部を大きく拡大すること”も可能になり、根尖部を大きく拡大すると細菌が少なくなることが知られている。(3,4,5)

さらにNi-Tiロータリーファイルは規格化されているので、それに合ったガッタパーチャを使用すれば根管充填も素早くできるし、術後のレントゲンも満足のいく像が得られることが多い。(6)

このようにもはや歯内療法臨床でなくてはならないものとなったNi-Tiロータリーファイルであるが、近年、ロータリーファイルを使用したがために歯根にマイクロクラックが入りそのことで歯根破折が起きるのではないか?という報告がJOEでもIEJでも多く見られるようになった。

例えば、以下のような報告をabstractで知ることができるだろう。

  • ハンドファイルの方がロータリーよりもマイクロクラックが入らない(7)
  • ロータリーでもレシプロモーションのものが、そうでないものよりもマイクロクラックが入らない(8)
  • レシプロでもロータリーでも差はないし、どんなファイルを使用しても程度の差はあれ、マイクロクラックは入る(9,10)
  • SAFファイルはロータリー、レシプロよりもマイクロクラックが入らない(11)

etc…

こんなにいろんな情報を言われると頭が混乱してしまうが、一体我々はどうすればいいだろうか??

ここで大事なことは、以上の報告の多くは抜去歯牙で行われているという点である。

例えば同じような問題の例を挙げると、外科治療時の超音波での逆根管形成があるが(逆根管形成で歯根にヒビが入る)、それらの多くはin vitroでの報告である。(12,13,14)

in vivoでは歯牙は周囲に骨、歯根膜で覆われているためそれがクッションになって歯根破折は起きない(超音波のパワーを大きくさえしなければ)という意見が支配的である。(15,16)

ではNi-Ti ロータリーでのマイクロクラックはどうか?といえば、そのほぼ全てが in vitro(抜去歯牙)での実験であるということだ。(9,10,17,18)

最もよく行われている実験が、根管形成して根を切断して、切断部位に亀裂が入っているかどうかを顕微鏡で見るものである。

しかしこの手の実験には多くの欠点が隠されている。

①根を切断する時マイクロクラック発生する可能性がある

②切断部分のみを断片的に二次元でしか検査できない。(3次元的評価ができない)

③抜歯された歯の年齢、理由が不明なことが多いのでそもそも与えられた歯の象牙質の質や密度に影響がある可能性

④根管形成、切断、断面の精査時に歯が乾燥していると歯は自動的に割れてしまう

⑤抜去歯牙を保存液に入れることで象牙質が変化し、乾燥する可能性

この中で最大の問題が④だ。

歯は乾燥していると図のように勝手に割れていく。

(Shemesh 2015 Endodontic Topicsより引用)

これでは、根管形成で歯が割れたのか、乾燥して勝手に歯が割れてしまったのか?わからない。

それでは、ということで歯を切断せずにメチレンブルーで歯根の破折の有無を見る研究もある。(19,20)

(Shemesh 2015 Endodontic Topicsより引用)

根切断の必要ないのでそれによる破折のリスクを下げることができる。ただし、歯根が乾燥していると勝手に割れていくので、そうならないように工夫を施した実験も散見されるが、人体の口腔内とは規格が違う。

それでは、μCTで、レントゲンにより精度高く歯根破折を確認してみようという試みがなされている。(3つしか文献はない→21,22,23)

μCTを用いれば、歯質を破壊することなく破折を確認できるかもしれない。

このμCTでの調査(3つの文献)での結論は、Ni-Ti Rotaryを使用したからといって破折が増えたという結論は得られなかった。

ただしμCT自体の解像度が破折を確認するのに不十分な可能性が指摘されているというのが欠点である。

そこで、Popたちはsynchrotron radiationを使用して(より解像度が高いμCTを使用)マイクロクラックの有無を調べた。(23)

(Shemesh 2015 Endodontic Topicsより引用)

すると・・・Ni-Ti rotary, のみならずレシプロを使用しても破折が確認されたという悲しい結果になってしまった。

(しかし、なんと治療してない歯にも多くのマイクロクラックが存在した!)

しかしこの研究の最大の問題が、対象となる歯が乾燥状態で撮影されたかどうかが不明なのだ。

乾燥していると歯は自発的に破折することは先に述べた。

またμCTでマイクロクラックの有無を調べるためにレントゲンを撮るのに1時間もしくはそれ以上の時間がかかってしまう。

従ってCT撮影時は歯が濡れていることが必要だが、ここがはっきりと述べられていない。

その他、In vivoで唯一の研究がAriasらのカダバー(ご遺体)を用いたもの(24)だ。

下顎前歯を治療せず、ロータリー、レシプロでマイクロクラックの程度を比較した研究である。

結果はマイクロクラックの発生率に有意差がなかった。(しかし、なんとここでも、治療してない歯にも多くのマイクロクラックが存在した!)

カダバースタディの長所は抜歯不要、より患者の口腔内に近い環境(歯の周りに歯根膜あり)であるが、欠点はカダバーを保存する保存液により、象牙質の質と象牙質の物性に与影響が加わる可能性があるという部分であり、やはり完全に口腔内に近い理想的な状態であるとは言い難い。

さて私はこんな話を長々として何が言いたかったのか?

結論は、現段階ではNi-Ti rotaryファイルがマイクロクラックを発生させるかどうか?それが臨床的にどこまで問題になるのか?は不明(25)、ということである。

そうしたら何もできないじゃないか?!

もうロータリーを使用するのはやめよう!やっぱりエンドをすると歯が割れるんだ!という誤解を受けかねないので、ここで私の意見を述べるとしよう。

先に述べた、in vitroでの切断を伴わない研究では、ある一つの特徴が導き出された。

”作業長を解剖学的根尖部より1mm引いた位置に設定すると、マイクロクラックの割合が優位に少なくなる”(作業幅径はマイクロクラックに影響していない)(20)

というものである。

根管形成を行う際に、オーバー形成を避けた方がいい理由がここでも導き出されている。

また、もう1つの特徴が先のsynchrotron radiationの実験、カダバーの実験でもわかったように、根管形成されていない歯にもそもそもマイクロクラックは存在していた、という事実である。

残念ながら、なぜマイクロクラックが根管形成されていない無傷の歯にも存在していたか?はわからない。

現段階では、加齢による歯の変化、咬合による影響が考えられる。(24)

しかし、そもそも歯にはマイクロクラックが入っているのだ、と考えるのであれば、このことがエンドにおいてもミニマムインタベーションを意識した方向へと時代が向かわせているのは疑いがないところだ。

私の意見をまとめると、

①作業長はオーバーにならないように気をつける
②ミニマムインタベーションを意識した根管形成・洗浄を行う(これはテーマが飛んでしまうのでここでは述べない)

ということになる。

References

  1. Short JA, Morgan LA, Baumgartner JC. A comparison of canal centering ability of four instrumentation techniques. J Endod. 1997;23(8):503-7.
  2. Hata G, Uemura M, Kato AS, Imura N, Novo NF, Toda T. A comparison of shaping ability using ProFile, GT file, and Flex-R endodontic instruments in simulated canals.J Endod. 2002;28(4):316-21.
  3. Siqueira JF, Lima KC, Mahalhaes FAC, Lopes HP, de Uzeda M. Mechanical reduction of the bacterial population in the root canal by three instrumentation techques. J Endodon 1999;25:332-335.
  4. Card SJ, Sigurdsson A, Orstavik D, Trope M. The effectiveness of increased apical enlargement in reducing intracanal bacteria. J Endodon 2002;28:779-783
  5. Baugh D, Wallace J. The role of apical instrumentation in root canal treatment: A review of the literature. J Endodon 2005;31:333-340
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  8. Liu R, Hou BX, Wesselink PR, Wu MK, Shemesh H. The incidence of root microcracks caused by 3 different single-file systems versus the ProTaper system. J Endod 2013: 39: 1054–1056.
  9. Yoldas O, Yilmaz S, Atakan G, Kuden C, Kasan Z. Dentinal microcrack formation during root canal preparations by different NiTi rotary instruments and the self-adjusting file. J Endod 2012: 38: 232–235.
  10. Ustun Y, Topcuoglu HS, Duzgun S, Kesim B. The effect of reciprocation versus rotational movement on the incidence of root defects during retreatment procedures. Int Endod J 2015: 48: 952–958.
  11. Hin ES, Wu MK, Wesselink PR, Shemesh H. Effects of self-adjusting file, Mtwo, and ProTaper on the root canal wall. J Endod 2013: 39: 262–264.
  12. Saunders WP, Saunders EM, Gutmann JL. Ultrasonic root-end prepa- ration. Part 2. Microleakage of EBA root-end fillings. Int Endod J 1994:27: 325-9.
  13. Abedi HR, Van Mierlo BL, Wilder-Smith P, Terabinejad M. Effects of ultrasonic root-end cavity preparation on the root apex. Oral Surg Oral Meal Oral Pathol Oral Radiol Endod 1995;80:207-13.
  14. Layton CA, Marshall JG, Morgan LA, Baumgartner JC. Evaluation of cracks associated with ultrasonic root-end preparation. J Endodon 1996;22: 157-60.
  15. Calzonetti KJ, twanowski T, Komorowski R, Friedman S. Ultrasonic root end cavity preparation assessed by an in situ impression technique. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 1998;85:210-5.
  16. Morgan LA, Marshall JG. A scanning electron microscopic study of in vivo ultrasonic root-end preparations. JEndod 1999;25:567-570
  17. Priya NT, Chandrasekhar V, Anita S, Tummala M, Raj TB, Badami V, Kumar P, Soujanya E. Dentinal microcracks after root canal preparation: a comparative evaluation with hand, rotary and reciprocating instrumentation. J Clin Diagn Res 2014: 8: ZC70–72.
  18. Ustun Y, Aslan T, Sagsen B, Kesim B. The effects of different nickel–titanium instruments on dentinal microcrack formations during root canal preparation. Eur J Dent 2015: 9: 41–46.
  19. Adorno CG, Yoshioka T, Suda H. Crack initiation on the apical root surface caused by three different nickel–titanium rotary files at different working lengths. J Endod 2011: 37: 522–525.
  20. Adorno CG, Yoshioka T, Jindan P, Kobayashi C, Suda H. The effect of endodontic procedures on apical crack initiation and propagation ex vivo. Int Endod J 2013: 46: 763–768.
  21. De-Deus G, Silva EJ, Marins J, Souza E, Neves Ade A, Gon”calves Belladonna F, Alves H, Lopes RT, Versiani MA. Lack of causal relationship between dentinal microcracks and root canal preparation with reciprocation systems. J Endod 2014: 40: 1447– 1450.
  22. De-Deus G, Belladonna FG, Souza EM, Silva EJ, Neves AA, Alves H, Lopes RT, Versiani MA. Micro-computed tomographic assessment on the effect of ProTaper Next and Twisted File Adaptive Systems on dentinal cracks. J Endod 2015: 41: 1116–1119.
  23. Pop I, Manoharan A, Zanini F, Tromba G, Patel S, Foschi F. Synchrotron light-based lCT to analyse the presence of dentinal microcracks post-rotary and reciprocating NiTi instrumentation. Clin Oral Investig 2015: 19: 11–16.
  24. Arias A, Lee YH, Peters CI, Gluskin AH, Peters OA. Comparison of 2 canal preparation techniques in the induction of microcracks: a pilot study with cadaver mandibles. J Endod 2014: 40: 982–985.
  25. Shemesh H. Endodontic instrumentation and root filling procedures: effect on mechanical integrity of dentin. Endodontic Topics 2015, 33, 43–49

作業長を遵守するかしないかで破折に大きく寄与することがわかっていたが、上記の論文とCurrent literature reviewは逆の結果が出ている。

しかしこれが科学だろうと私は思う。

そして、

治療しても状況が変わらないと言う、そこの患者さんのあなた。

これがその原因ではないか?と私は思っている。

これに同意するかしないかはこれを読んでいるあなた次第である。

さて、次回は11/26(金) 20:00~22:00にZoomを併用して行われる。

次回もよろしくお願いいたします。