紹介患者さんの治療。
主訴は
他院で#2を抜歯された。#3も抜歯が必要だという。本当に抜かないといけないのか?そして、なぜ歯科治療は一度治療してもすぐにダメになるのか?
であった。
患者さんは、全国展開する福岡市内ではかなり有名な某学習塾の社長で私の長男と彼の長男が福岡インターナショナルスクールでかつて同級生であった。
その縁でやってきたとも言える。
うちに来る前は某・国立大学歯学部出身の歯科医院に数十年通院していたという。
が、問題が解決されることは今までなかった。
その方のHPを見ると、
私は抜きません!
がモットーのようだが、#2はすでにその歯科医院で抜歯されていて欠損修復が必要な状態であった。
さて、この患者さんから質問があった、
”なぜ歯科治療は行っても数年後に再度ダメになるのか?”
という問いにあなたは何と答えるだろうか?
それはこのブログの最後にまわそう。
歯内療法学的検査(2023.4.27)
#3 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#4 Cold+3/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
主訴の歯には咬合痛がみられただけであった。
それだけで、本当に抜かないといけないのだろうか?
PA(2023.4.27)
これだけでなぜ抜かないといけないのだろうか?
意味がわからない。
除冠し、虫歯を除去し、再根管治療ができそうではないだろうか?
それとも私が世間からはずれているのだろうか?
さておき、臨床的にはMBの根尖部に病変が見える。
ちなみに、
ラバーダムを使用して根管治療をしたことは今まで1回もない
という。
それだけでもどれほどこの国が病んでいるか?わかる事象だろう。
しかし、以上はPAだ。
CBCTしか真実の姿は追及できない。
他院で撮影してもらったCBCTを観察した。
CBCT(2023.4.27)
B
MBに大きな根尖病変がある。DBも怪しい。
それぞれ見ていこう。
MB1
MB2はあるような、ないような。。。
石灰化しているかもしれない。
MB2
しかし、根管は側方面観からは見えているが3次元的には判然としない。
探せば見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない。
が、
根尖病変の原因がMB2に由来しているか?は誰にもわからない
のである。
なので形成できなくても肩を落とす必要はない。
Apicoectomyを行えばいいからだ。
その時はMB2も捕まえなくてはならないけど。
DB
DBにも病変がある。
ここも穿通が必要だ。
P
Pには病変がない。
ほっと胸を撫で下ろした。
Intentional Replantationのリスクが回避されるからだ。
以上より何が言えるのか?といえば、本症例は、
外科治療よりも再根管治療でマネージメントできる可能性が高い
と言える。
が、やってみなければわからない。
このことは患者さんによく説明する必要がある。
しかも、治療前にだ。
とこれだけでどうしてこの歯を抜かないといけないのだろうか?
そしてネジコロを入れる気だろうか?
私には全く意味がわからない。
そしてもっと意味がわからないのでこれだけでどうして抜かないといけないのだろうか?
やれることは再根管治療、歯根端切除術、意図的再植とあと3種類の治療ができるにも拘らずである。
もちろんそれを決めるのは患者さんだが、
すぐ抜きたがるのは保険点数で再根管治療が438点だから
に他ならない。
アメリカ人が驚愕するこの脅威の保険点数では、歯科医院の家賃も、銀行からの借金も、技工代も、給料も、リース代も、Ni-Ti Rotary Fileも、BC sealerも、BC sealerのチップも、何もかも払えないからだ。
これでは、保存することよりも抜いてImplantにした方が儲けも多いだろう。
しかし、同時に患者さんの歯科医療に対する信頼も崩壊するだろう。
であれば、踏ん張って再根管治療をちゃんとやるか、やれる人に紹介しろよ、と私は思うのだがそれは間違っているだろうか?
歯内療法学的診断(2023.4.27)
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Re-RCT+Core build up w/wo Fiber post
ということで、推奨される治療は上記から再根管治療である。
多忙な方なので、別日に治療へ移行した。
☆ここから治療動画/画像が出てきます。不快に感じる方は視聴をお控えください。
#3 Re-RCT(2023.6.26)
除冠し、コアを除去すると目に入ったのは一面に敷き詰められたGutta Percha Pointである。
これをまず除去し、丹念に超音波、Ni-Ti File、C-solution(という名のクロロホルム)、でGutta Percha Pointを除去してから作業長を測定した。
これらの除去行為は、
Chybowski 2018 Clinical Outcome of Non-Surgical Root Canal Treatment Using a Single-cone Technique with Endosequence Bioceramic Sealer: A Retrospective Analysis
の本文中にある、
In retreatment cases, previous obturation materials and canal obstructions were removed using a combination of ultrasonics, chloroform, Hedstrom files, and rotary instruments.
の通りである。
ここで作業長を測定した。
以上の内容で再根管治療を行った。
MBは穿通しなかったので、以前言及していた方法で穿通させた。
が、これはもしかすると形成で根管が変移した、根尖口を破壊した可能性がある。
治療後に長さを測定してみた。
除冠してReference pointが変化しているので正確にはわからないが少なくとも測定し直す前の17.0mmという数字は間違いだとわかる。
これだけでもCBCTは臨床に有効的である。
それなしではもはや臨床できないだろう。
そして形成だが、#10.05で穿通させて#30 K FileでApexにRoot ZXが到達しても、ファイルのテーパーや作業長の設定度合いからHyFlex EDM #25.V→#40.04のみで終了した。
Fileにテーパーが付与されたNi-Ti Rotary Fileは、このように歯内療法を大きく変えたと言っていいだろう。治療動画や美しい根管充填よりもこうした知識そのものが臨床では非常に重要だが、そんなことは誰もわからない。これを変えなければ日本の歯科臨床は永遠に変わらないだろう。(まあ変わるわけないし変える必要性もないか)
また、MB2だが、根管口さえ見つからなかった。ということでこれで諦めて根管充填に移行した。
上記の形成サイズ(MAF)で、BC sealerとともに根管充填した。
コア用レジンのみで支台築造し、PAを術後に撮影した。
MB, DBからはパフが見られている。緊密に根管充填されているということの証左だ。
以上で治療は終了である。
治療終了後の患者さんとの会話が以下である。
歯科治療ってこんなに快適だったんですか!
とびっくりされていた。
患者さんはちなみにずっと寝ていた。
開口器はつけていたが、
HyFlex EDMがあるのでそれほど開口しなくても治療ができるのである。
その意味でこの道具は凄まじいとしか言いようがない。
が、何度も言うように道具が予後を担保させるのではなく、治療内容が予後を担保することは言うまでもない。
が、上記にあるように、そんなびっくりすることはないのだ。
痛くない、時間もさほどかからない、予後が90%は担保されているという治療が歯内療法だからだ。
何が問題だろうか?という話である。
そして冒頭の
”なぜ歯科治療は行っても数年後に再度ダメになるのか?”
に対しての私の答えはこうだ。
“学習塾業界でも、90%は頭がおかしいでしょ?歯科業界も同じです。保険診療では理想とする材料も、時間も、スタッフも雇えない。そういう治療はできないから独自の道を行くしかない。でも、何の肩書きもない歯科医院に誰がいきますか?私が、“米国歯内療法専門医”だから多くの患者さんが来るのです。お金を私から簒奪することはできても、肩書きや知識は持っていけないないじゃないですか。それがアメリカに留学した最大の理由です。そしてきちんと治療を行えばマネージメント可能なのが、歯内療法です。これからあと数本も同じ治療内容で進みますので今後ともよろしくお願いします。”
患者さんは、
“なるほど…それはそうだ。私の今までの歯科治療は歯科治療じゃなかったんですね。。。よくわかりました。歯科医療は行う人間によってここまで違うのかと痛感しました。。。今後ともよろしくお願いいたします。”
ということでこの日の治療は40分程度で終了した。
次回は別部位の治療へ移行する。
その模様は再度お伝えしたい。