紹介患者さんの治療とその経過観察。

主訴は、

根の先に病気があり、治療が不完全であると言われたのできちんと治療して問題を解決したい

であった。

歯内療法学的検査(2024.3.11)

#2 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#3 Cold+8/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

打診痛がある、#2が患歯だろうと予想がつく。

PA, CBCTを撮影した。

PA(2024.3.11)

PAで#2にはApex周囲に根尖病変が見える。

ということは、かなり大きな根尖病変の可能性が高い。

頬側の皮質骨も破れているのだろう。

過去の有名文献からそれが予想できる。

Seltzer, Bender 1961  Roentgenographic and Direct Observation of Experimental Lesions in Bone: I†

Seltzer, Bender 1961  Roentgenographic and direct observation of experimental lesions in bone: II. 1961

そして根管治療は途中で終了している。

心が折れたのだろう。

CBCT(2024.3.11)

MB

DB

P

が、PAでの予想は大きく外れていた。

過去の、SeltzerやBenderの研究の結果は何だったんだ、

Seltzer, Bender 1961  Roentgenographic and Direct Observation of Experimental Lesions in Bone: I†

Seltzer, Bender 1961  Roentgenographic and direct observation of experimental lesions in bone: II. 1961

という話である。

このことからも、

もはや根尖病変のサイズに関してはCBCTの右に出るものはない

という事実が分かるだろう。

PAはもはやその歴史的役目をほとんど終えていると言わざるを得ない。

そしてこの咬合痛のある#2をどう治療するか?であるが、

術前に不適合な保険のInlayが装着されていることからも、たとえ穿通しなくても治癒する可能性が60%もあるだろう

という予測がつく。

ということで行うべき治療は、再根管治療だ。

歯内療法学的診断(2024.3.11)

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Re-RCT

ということで再根管治療へ同日移行した。

⭐︎この後、治療動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。


#2 Re-RCT(2024.3.11)

Onlayを除去すると…内部はかなり汚染されていることがわかる。

これが根尖病変の原因である可能性が高い。

さらに虫歯もあったので、ラウンドバーで除去した。

既に装着されていた築造体を除去すると、その内部はやはり汚染されていた。

これが、根尖病変の原因なのだろう。

隔壁形成を行なった。

いわゆる、

Temporary Build up

である。

この後、ラバーダムをかけて洗浄液が漏れないようにブルーのレジンを周囲に盛るのであるが、それらが結合しないように

隔壁用のレジンはバーで新鮮面を出しておく必要がある。

それが治療では重要だ。

Gutta Perchaはどうやって取っているのか?

という答えは以下の動画にある。

そしてそれは以下の文献に記載の通りである。

Chybowski 2018 Clinical Outcome of Non-Surgical Root Canal Treatment Using a Single-cone Technique with Endosequence Bioceramic Sealer: A Retrospective Analysis

この中に記載されている、

In retreatment cases, previous obturation materials and canal obstructions were removed using a combination of ultrasonics, chloroform, Hedstrom files, and rotary instruments.

の通りの治療行為が以下に行われている。

この環境下で作業長を計測すると以下になった。

根尖病変はあるが、3根管とも穿通しなかった。

それぞれの根管を#25.V→#40.04まで拡大している。

するとだ、

口蓋根から何が出てきただろうか?

といえば、

ブローチ綿花

だ。

こんなものが根管に入っていれば、異物反応の原因になってしまう。

かつて某所で勤務医の時代、そこに勤務する歯科衛生士に

あの人(私のことである)はブローチ綿花も巻けない!

と難癖つけられたが、そんなものを使用しているのは日本人だけだろう。

BC sealerとGutta Perchaで根管充填した。

CBCTも撮影した。

MB

DB

P

P根はおそらく、SS Hand Fileで形成したのだろう。

MB, DBは何もしていなかったのだろう。

これでも責任を問われないのが、この国だ。

さあこの歯はどうなるだろうか?

私の予想である、

術前に不適合な保険のInlayが装着されていることからも、たとえ穿通しなくても治癒する可能性が60%もあるだろう

という予測は当たるだろうか?

さて、ここから時間が半年経過した。

#2 Re-RCT 6M recall(2024.9.18)

術前の打診痛が消失した。

PA, CBCTも撮影した。

MB

DB

P

初診時と比較した。

病変は消失し、臨床症状も消えた。

このケースから学べることは、

術前に不適合修復物が装着されれば穿通しなくても60%の成功に入る可能性があるという臨床的事実である。

治療にはやはり、頭を使用しなければならないということがわかる。

ということでこれにて終診とさせていただいた。

遠方からお疲れ様でした。