紹介患者さんの治療。

主訴は、

数ヶ月くらい前から歯茎にできものがある。また、歯の内部に穴が空いていると言われた。矯正も行っているので歯牙を保存したい。

である。

患者さん曰く、小さい時に根管治療して、その後、保険のクラウン(硬質レジン前装冠)を有無を言わさず被せられたという。

この医療行為に、私は閉口するがこれが日本の平常運転なのだろうか?

そして、紹介先の先生の歯科医院で除冠し、オールセラミッククラウンを装着するという。

が、支台築造を行おうとした時に、レジンを除去すると根管以外から出血があったという。

つまりその時点で、かかりつけ医の先生は、穿孔を疑った。

ということで、彼は歯科診療にマイクロスコープは採用しない、歯内療法は専門医に任せるという診療方針なのでうちの歯科医院を紹介したという流れである。

検査、PA、CBCT撮影を行った。

歯内療法学的検査(2024.9.2)

#8 Cold+3/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#9 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+) 

Sinus tractがあるが、これはここ数ヶ月でできたものだそうだ。

そこを押さえると痛い!ということは、頬側の皮質骨が消失しているのだろう、ということが予測できる。

PA, CBCTを撮影した。

PA(2024.9.2)

根管治療を本当にしたのか?疑わしいPAだが、おそらく根が未完成の永久歯の歯牙を根管治療したのだろう。

それでGutta Percha Pointが不完全に根管に挿入されている状態である。

また、PAからおそらくこの患者さんは矯正治療を行なっていたであろうことが予想できる。

歯根吸収があるからだ。

が、問題の歯牙は反対側同名歯よりも長い。

ということは、この歯は矯正前に根管治療したであろうことは容易に想像がつく。

実際、患者さんに問診するとその通りであった。

次にCBCTを撮影した。

CBCT(2024.9.2)

やはり、圧痛がある原因は頬側の皮質骨が穿孔している証左であった。

そして穿孔も疑われる。

歯内療法学的診断(2024.9.2)

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Chronic apical abscess

Recommended Tx: Re-RCT with Perforation Repair

ポイントは穿孔がどこで?根充後にそれを封鎖することが可能かどうかだろう。

が、それは治療をしてみないとわからない。

また、患者さんの情報(小さい時に根管治療して、その後、保険のクラウン(硬質レジン前装冠)を有無を言わさず被せられた)から、保険の不適合のクラウンが装着されていたことから、根尖部を十二分に拡大しなくても治癒していく可能性はあると踏み、再根管治療へ移行した。

再治療が奏功しなければ外科だがまず第一歩は再根管治療だろう。

以下の症例のように、だ。

#8,9,10 Re-RCT 3年経過の予後〜外科治療を拒否した患者さん⇨Re-RCT>>>Surgical Endodontics

ということで、同日、治療へ移行した。

⭐︎この後、治療動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。


#9 Re-RCT(2024.9.2)

K Fileの#30で穿通した。

長さを測定すると、16.5mmであった。

作業長は-0.5mm引いて16.0mmとしてHyFlex EDMの#25のNi-Ti Fileを選択した。直線根管だからである。

しかし…

#25.Vは形成するまでもなく、作業長まで到達した。

つまり…機械的にほぼ形成はできなかったという意味である。

#40.04も形成できていない。

#60.02を使用した。

当歯科医院の最大拡大号数である、

HyFlex EDM #60.02が形成せずに作業長まで到達している。

これ以上太いファイルはうちにはない。

つまり、MAFは#60であるということがわかる。

が、だ。

これで問題が解決されるだろうか?

私なら…

テーパー形成をしてよりバクテリアが減るように配慮するだろう。

ということで、

ProTaper Gold F5を使用してテーパー形成をしようと試みた。

が、だ。

動画をみていただければわかるように、作業長まで抵抗感なく挿入された。

ということで、Gutta Perchaを用いない、MTA根充となった。

このことが示すことは、

機械的な根管形成で細菌を除去することはできない

という事実である。

であれば、何でそれを補完するだろうか?

と言えば、

洗浄しかない。

が、洗浄で細菌が十二分に減るだろうか?

それは誰にもわからない。

が、

術前はレジン前装冠が装着されていたという事実から不適合感を有する歯牙であったということから考えると、環境整備を整えれば治癒していく可能性はある。

なぜこういう奥歯にものが挟まったような話になるか?と言えば、そうした事実を客観的に証明できるような臨床的なメルクマークがないという事実である。

患者さんの免疫力

患者さんの有する細菌の毒性

治療介入により改善されるであろう細菌の除去

により治癒するか否かが決まるからである。

これは、従来、Siqueriaが唱えている通りである。

Siqueria 2008 Clinical implications and microbiology of bacterial persistence after treatment procedures

ということで動画にあるように、MTAで根充している。

どうやってやるのか?という答えはそこにあるので興味がある方はみてほしい。

BC sealerで根充した後は、BC puttyで蓋をしている。

次に頬側の穿孔部位を封鎖した。

BC sealerを置いたのだが…BC puttyをその上に乗せるのが難しい…

が、最終局面まで到達した。

ということで、即日、ファイバーポストとレジンで築造した。

BC puttyが硬化していないじゃないか!と言うツッコミはわかる。

が、1日以上経過すれば必ず硬化するのだろうか?

と言う問いにあなたはなんと答えるだろうか?

術後にPA, CBCTを撮影した。

ということで次回は1年後である。

またその模様をお伝えしたい。