紹介患者さんの治療とその経過観察。

主訴は、

左上奥歯の根の先に膿が溜まっていると言われた。治療してきちんと治したい

であった。

今までの根管治療をこの方に聞くと、

神経の治療は何回もかかる…痛くもないのになぜ通わないといけないのか?

という疑問が常にあったという。

そして治療してもスッキリしない感じが今も続いているという。

検査を行った。

歯内療法学的検査(2023.8.29)

#11 Cold+3/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#12 Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#13 Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#15 Cold+2/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

PA(2023.8.29)

CBCT(2023.8.29)

#13

根尖部には大きな病変がある。

Palpationに対して反応が出るのはこの頬側の皮質骨が穿孔しているため

だろう。

#12(B)

頬側の皮質骨は穿孔していない。このことが、Palpation(-)であることの裏付けになっている。

また、

この#12は2根管の上顎第1小臼歯だろうか?

といえば、根尖と思しきものが根の中央にある。

このことはこの歯が1根管性である可能性を示している。

#12 P

Pに入っていて然るべき口蓋根のGutta Perchaが歯根の中央にある。このことはやはり、1根管性であることを示している可能性が高い。

Vertucci 1979 Root canal morphology of the maxillary first premolar

によれば、

上顎第1小臼歯は以下のような形態をしていることが多い。

さて。

それ以上に重要なことは、

このPAとCBCTでのGutta Perchaの写り方の差

があなたにはわかるだろうか?

CBCTでは太く見えるが、PAではそれほどではない。

が、もしかするとすでに大きく形成されている可能性はある。

それをどうすれば確かめられるか?

といえば、

使用するNi-Ti Fileを作業長まで入れてリファレンスポイントにあとどれくらいラバーストップが着くか?確かめる必要がある。

その量が多ければ、治癒する可能性が高いだろう。

その量が少なければ…治癒は難しいだろう。

それを決めるのは、最終的には

その患者さんの根管の中にいる細菌の毒性

その患者さんの持つ免疫力

その患者さんの以前の根管形成の状況

で決まる。

そこには、

洗浄液の抗菌性の強さや、どんなシーラーを使用したか?とか、どんな根管充填の方法で根管充填したか?などは全く無関係である。

以下の文献がその意味を示す重要なものだ。

Siqueria 2008  Clinical implications and microbiology of bacterial persistence after treatment procedures

歯内療法学的診断(2023.8.29)

#12,13

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Re-RCT

前医が根管形成を全くしていないと判断したので、まずは非外科的な再根管治療に移行した。

時間の都合で、

#13からまず行い、#12は1ヶ月後に行うことになった。

また、以下の動画で

使用するNi-Ti FileのラバーストップとReference Pointまでがどれくらいあるか?に注目してほしい。


⭐︎この後、臨床動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。


#13 Re-RCT(2023.8.29)

再根管治療を行う前に、まずはメタルポストコアを除去しなければならない。

が、比較的ストレートなポストを有するコアである。

恐らく…除去に時間がかかるだろう。

セメントラインを全周出して、VP Tipを当てた。

珍しく、除去に18分もかかってしまった。

が、この後の根管治療は楽である。

このように、

再根管治療は根管治療そのものよりもその準備に時間がかかることが多い

と言える。

タイムマネージメントをする上で頭に入れる必要があるだろう。

Gutta Perchaを除去していき、作業長を求めていく。

以下のようになった。

ここから0.5mm引いた15.0mmを作業長とした。

私が使用するファイルはHyFlex EDMであるので、まずは#25.Vからスタートだ。

それがリファレンスポイントであるBに対してどこまで入るか?を注目してほしい。

この量であれば、#40.04で終わっても問題がなさそうである。

次がその#40.04である。

Patency File

も根充前に行った。術後疼痛を和らげるためだ。

意味が???なあなたは歯内療法の基本が理解できていない。

来年度の

Basic Course 2025

でお待ちしています。

ということで治療の結果は以下になる。

その後、Single Pointで根管充填した。

楕円形の根管なので、Gutta Perchaを複数本挿入する必要がある。

この際は3本使用した。

この事実も、文献に記載の通りだ。

Chybowski 2018 Clinical Outcome of Non-Surgical Root Canal Treatment Using a Single-cone Technique with Endosequence Bioceramic Sealer: A Retrospective Analysis

こんなことに“エビデンス”など不要な話だ。

考えても見てほしい。

楕円形の根管に1本だけGutta Perchaを入れたらどうなるだろうか?

隙間が多くなるだろう。

その隙間をあなたはどうやって埋めるのか?

Gutta Perchaか?シーラーか?

時代は、シーラーにシフトしたのである。

Gutta Perchaで全てを埋める時代(CWCT= Continuous Wave Condensation Technique)は終了した。

まあ昔からそんなことは誰もしてはいないけれども。

が、レントゲン造影性が高いシーラーでもそう言う根充をすればカッコ悪い結果になってしまう。

なので、複数本Gutta Perchaを入れるしかないのだ。

PAを撮影した。

問題はないと思われる。

ということでこの日の治療は終了した。

別日に#12の治療に移行した。

#12 Re-RCT(2023.9.28)

この時から当歯科医院にCBCTが導入されたので治療前に撮影した。

2根管性である可能性が高い。

それを考慮して再根管治療した。

Gutta PerchaはこのようにC-solutionで溶かしながらSXで根管口部を広げながら除去していく=進めていく のが定石だ。

私は再根管治療の目的が、Gutta Perchaの除去に置いてはならないと考えている。

それは途中過程で、最終目的は根尖病変が消えることである。

その際に最も重要なのは、根管形成にどれほど意味があるか?である。

上顎の機能咬頭は口蓋であるので、非機能咬頭側の頬側から根管長を測定し、根管形成をスタートした。

これをどう判断するか?だ。

次が#40.04である。

この#40.04の感じから私は、もうワンサイズ拡大することにした。

心の安定?のためと、#40→#60で50%の拡大が可能だからである。

しかも、#60はHyFlexは.02しかテーパーがないこともそれを後押しした。

心の安定が得られるラバーストップとReference Pointの距離であった。

ということで、PがBに合流しているか?チェックした。

それはいつもの方法で、だ。

#25のK Fileを使用しているのは、そのサイズで穿通しそうだったからである。

案の定、Root ZXはApexまで到達した。

その後、Gutta Perchaを取り出すと…

16.0mmの位置に傷がついていることがわかる。

このことから、P側の作業長は16mmであるということがわかる。

この時に-0.5mm引く必要はない。

そこで合流しているからだ。

HyFlex EDM #25.V,#40.04をP根管に挿入するがReference Pointまで容易にタッチするので再根管形成に意味合いがない。

したがって、#60.02のみで形成した。

それでいいのか?と言われる可能性はあるが、主根管はBであるので問題はないと考えた。

したがってこの時点で、以下の表が完成するわけである。

根充する時に使用すべきGutta Perchaは#35.04である。

アピカルストップがつき、Gutta Perchaがそこでストップする可能性が高いからだ。

また、使用するFileやGutta Perchaには誤差があるのでサイズを下げなければならない。

ということで根管充填した。

術後にPAを撮影した。

ここから半年後に経過を見ることになったが、臨床症状は喪失していた。

画像的には以下である。

最終補綴はOKである。

ここからさらに半年が経過し、1年リコールで来院された。

#12,13 Re-RCT 1yr recall(2024.9.18)

当初の圧痛が消失していた。

#12 B

#12 P

#13

初診時と比較した。

まさに劇的な変化が生じている。

しかも1年で、だ。

臨床症状も消失したため、この日で終診とさせていただいた。

以下は患者さんの感想。

行っていただいた根管治療ですが、今まで治療をしてもスッキリといかない感じがかなりありましたが、今回は今までの治療と全く違うものでした。

とにかく、その効果に驚きました。

今まで本当に、ありがとうございました。

トレッキング、私もしてみます。

長い間、お疲れ様でした。

いつまでもお元気で。