バイト先での治療。
患者さんは40代女性で、半年前にApicoectomyを行っている。
今日はその6ヶ月の経過観察のリコールであった。
半年前の状況は以下のようになる。
バイト先での治療。
40代女性。
主訴は歯を残したい
歯内療法学的検査は以下のようになった。
#10 Cold NR, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)
#11 Cold NR, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)
#12 Cold+3/5, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)
PAを撮影した。
病名は以下のようになる。
Pulp Dx :Previously Treated
Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Apicoectomy(バイト先の先生に依頼した先生の希望)
Apicoectomyを行う時に必ず言われるのは、歯冠部からの感染を無視していいのか?という直球質問である。
理論的には無視できないだろう。
しかし、臨床は不思議なことが起きるのである。
Jonasson 2017である。
実際の人で行われていて、補綴を敢えて外さずに外科的歯内療法を行い、その2年予後を見たもので成功率は90%であり、Apicoectomyの予後と一致している例の論文だ。
短期的な予後であれば外科治療で根尖病変をマネージメントできる。
が、なぜそもそもこのような病気になるのだろうか?という話をした。
といえば、勿論?ラバーダムをせずに博多駅周囲の審美歯科医師が治療したことも問題としてはあるだろう。しかしそれ以上に問題なのは補綴の不適合である。
Ray, Trope 1995を読んでみることを勧める。
これはカウンセリングにも使用できる有効な論文だ。(もちろんこの逆の結果になっている論文、両方大事だとする論文もあるが)
質の高い根管治療(Good Endo=GE)を行い、質の高い修復治療(Good Restoration=GR)を行うと、根尖病変ができない可能性が91.4%もあることがわかる。
しかしながら、質の高い根管治療を行なっても(Good Endo=GE)、質の悪い修復治療がなされていると(Poor Restoration=PR)その予後は44.1%になってしまう。
逆に質の悪い根管治療を行なっても(Poor Endo)、質の高い修復治療を行うと根尖病変は67.6%もある。
このことは、根管治療よりも修復治療の方が根尖病変の防止に有効的であるということを示している。
これには色々な意見があり論文ではこの逆の意見もあるし、両方大切だという意見もあるが、感覚的には私は正しいと思っている。
そのような臨床体験が何度もあるからだ。
しかし、長期的に歯を機能させようと思えば質の高い根管治療、修復治療の両方の治療が大切であるということは論を待たない。
さてこのような説明を行うと患者さんの希望が変化した。
彼女が私にこのような質問を投げかけてきたのである。
「外科治療後に補綴治療をやり直すというのはダメでしょうか?」
答えはOKである。
順序が逆だろうという意見もあるだろうが、私はそのようなやり方でも問題が起きていない症例を多々見てきている。
ということで治療前に注意事項を説明し外科的歯内療法(Apicoectomy)が行われた。
#9 は逆根管形成がしてあったが逆根管充填材が入っていなかった。
カツラを作ったのに被り忘れたかのようだ…
#10は根尖部がかなり複雑で蛇のようにトグロを巻いている根尖部であったし、側方に側枝も存在した。遠心には骨欠損はなかった。つまり、術前にみたCBCTの絵はやはりアーチファクトであったと考えられる。
この歯科医院は相変わらず写真が撮れない臨床環境であるので絵に描いて説明する。
根尖部は著しく湾曲し蛇のようにトグロを巻いていた。
そして側方部には側枝が存在しその周囲に大きな骨欠損(PARL)ができていた。
これを処理するには色々なやり方があるが犬歯で歯根が長い歯であるので私は側枝の直上まで歯根を切断する決意をした。
それぞれ逆根管形成し、逆根管充填した。
それぞれ問題がないと判断し、止血のために添付していたBC Puttyを取り除き(取り除く必要もないが)、縫合しPAを撮影した。
以上の治療が2021年1月21日にバイト先で行われた.
このバイト先には今も昔も顕微鏡にカメラがないので記録が取れない…
しかし、それから半年経ったので、この歯科医院で経過観察をしたのである。
私の治療は奏功しただろうか?
2021.7.17に経過観察は行われた。
痛みは全くないという。
歯内療法学的検査は以下のようになった。
#10 Cold NR, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)
#11 Cold NR, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)
#12 Cold+6/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)
前回の診療時(2021.1.21)と検査結果は変わらない。
PAは以下である。
治療前の骨窩洞は#9,10ともにほぼ無くなっていた。
いわゆる歯内療法外科の成功の中でのComplete healingに該当した。(Molven 1987をご参照いただきたい。)
次回の経過観察は2022.1である。
その際はこのバイト先でCBCTを撮影して状態を確認したいと思う。
次回の報告をお待ちください。