バイト先での治療。

患者は30代の女性。

左下6番(#19)の再根管治療と支台築造処置を2020.8.2に行なっていた。

あれから1年が経過していた。

この日はRecallであった。

1年前を振り返ってみよう。

#19 Re-RCT+Core build up

MBとMLは合流している可能性が高いという事実、近心から偏心撮影した事実を考えると、このガッタパーチャが入っているのはML根と考えられる。

CBCTを撮影してもらった。

やはりMLにはガッタパーチャが入っていた。

しかしMBには何もない。

根尖病変がある。

ということはMBが勝負の分かれ目になる。MBを穿通させ根管治療することができれば勝負に勝てるかもしれない。

MLはこの状態から考えてもおそらく穿通しないだろう。

ではMBは穿通するのか?それは私にはわからない。しかし穿通するように努力するのが治療だ。

そのためのオプションも私にはある。

また、2根管の歯が根尖病変を持っており1根管だけ穿通してどれだけ根尖病変が治るのか?私はそのような論文を今まで読んだことがないのでわからない。しかし、全く掃除できないよりは治る可能性はあるだろう。

次がD根である。

D根はガッタパーチャで根充してあるが直線的に舌側に変異して根管充填してある。

これはハンドファイルで治療してあるなと容易に想像できる。

そして本来の根管の形態から逸れていることも想像できる。

しかし根尖病変がない。

根尖病変がなければ穿通しようがしなかろうが成功率は90%以上だ。

ということは以前のブログでも書いた通りだ。

という自分の考えをカウンセリング時に患者さんには伝えた。

勝負は#19のMB根が穿通するかしないかだ、と。

そして治療となった。

が、いきなり伝達麻酔をしようとしたらかなりビビられた。

今までそんなことしたことがないからだそうだ。

若い先生へ。いいですか、これが日本の歯科医療の現状なんです。

今の歯科医師は伝達麻酔もしないで根管治療するんです。

でも命には関わり合いはないけど。

伝達麻酔+頬神経ブロックをして10分時間をおいて口唇・舌の痺れを確認し再根管治療はスタートした。

作業長は

MB=14.0mm

ML=閉鎖

D=閉鎖

であった。

全ての根管でMAF=#40.04(ただし根管の3/4を最終的に#50.03で形成)であった。

そして最大の懸案だったMBが穿通した。

これは治る可能性が高いかもしれない。

ポイント試適しガッタパーチャポイントの位置を確かめて、根管充填して支台築造してレントゲンを撮影した。

この治療をした時の私の予想は、

①再治療なので治癒には4年要する

②M根→MBは穿通したので治癒する可能性が高い

③D根→根尖病変がないので穿通しようがしなかろうが成功率は90%以上だ。

ということで、再根管治療でめでたくMBは穿通した。

そしてこれから7ヶ月後に経過観察を1度している。

それが以下の通りである。

ということでここから時間が7ヶ月経過している。

<経過観察時(治療より7ヶ月経過)>

PAは以下になる。

臨床症状は何もない。

MB根しか穿通、理想的な根管形成ができていないがOrstavik 1996の論文で示された通りの治癒傾向を示していると言えるだろう。

以上のような話を経過観察時に患者さんに行なっている。

患者さんは大喜びであった。

そして再診料もかかっていない。

もう最終補綴治療を行っても恐らく大丈夫だろう。(が、外科治療へと移行するリスクは依然としてある)

ということで次回は1年後(今年の8月〜9月)に再度ご報告する予定である。


ということで早いもので、再治療から1年が経過したのである。

それが以下のPAである。

2021.9.21

歯内療法学的検査で初診の時にあった咬合痛や圧痛は消失した。

この時点で痛みなどは全くない。

1年経過して治癒したのだ。

しかし、これが永遠に続くか?は私にはわからない。

何れにしても、歯内療法を行なった結果は出た、と言える。

以下、患者さんの感想。


先生、根尖病変が消えてすごいです。

本当に治療して良かったです。

物の価値は人それぞれですが、私にとっては歯はすごく大事なんです。(先生はどうせ死なないからとかいつも言いますが…)

治療してもらい、治っていったこの歯が長く使用できるように私も頑張って管理したいと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。


このように言ってもらえて治療した意味があったなと思う。

こういう人ばかりだといいが、残念ながらそうとは言えないのが現状である。

このように考える人が、増えれば、いい歯科医療が日本でも展開できるだろうになとつくづく思う。

次回のリコールは1年後である。

とは言え…

この国に、歯科医療の夜明けは来るだろうか?

まあ来ないだろうな…