経過観察の患者さん。

当時(2017.9.20)の主訴は”咬合痛が被せた後も続く”

治療歴は近隣の歯科医院で抜髄・根管治療を4~5ヶ月も行なっていたっという。

理由は、ファイルを入れるたびに患者が激痛を訴えたためである。

さっさと麻酔をすればいいものを主治医は

”保険診療では点数=医療収入 がない局所麻酔をたかだか根管治療で使用するのがもったいないから”

という理由で無麻酔で行っていたらしい。

代診の歯科医師にそうキレていたそうだ。

何か私は昔、似た様な話を思い出した。

私もかつてその様なことで叱責を受けたことがある。

が、アメリカであれば訴訟される案件だ。

根管治療で麻酔をするのは当たり前である。

この当たり前が、早く日本も当たり前になってほしいがそれはベテランの歯科医師から生まれることは皆無だろう。

もう諦めるしかない。

こういう現象1つとっても、

日本の保険診療に未来がない

ことがわかるだろう。

しかしネットでは相変わらず

”根管治療 保険 名医”

とか、

”マイクロスコープ 保険 名医”

とかの検索が多い。

何度も言うが無理である。

そんなことをすればその先生が銀行から借りたお金はあっという間に人件費に消えてゼロになる。

事実私がそうだった。

保険診療で良い歯科治療はできないのである。

さて、この患者さんはこの様に適当な?根管治療、そして補綴治療はセラミックが入っていたが被せた時から違和感がずっとあり、やがて慣れてくるからと宥められたという。

しかし、慣れてくるどころか歯茎を押さえると痛みが増してきたので(要するにPalpation+という意味だろう。)、当時の博多駅東のまつうら歯科医院 歯内療法専門室に来院された。

CBCTはない。

なぜか?

再治療で外科治療でないからだ。

ということで、歯内療法学的検査を行なった。

#29 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#30 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(+; MB部), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#31 Cold+5/5, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

主訴通り、MB部根尖を綿棒で押さえると痛みがあった。

これは、根管治療/外科治療がうまくいけば主訴が解決できるかもしれない。

PAは以下になる。

さて、どうすれば勝負に勝つことができるだろうか?といえば、

もう少し根尖部まで形成できれば逆転勝利が得られるかもしれない。

具体的には、この近心根の根管形成・根管充填を

から

の様に修正できるか?である。

しかもlesionがあるため、根尖部からはSelaerが溢出しなければ完全にパックできているとはいえない状態である。

また、下顎大臼歯の近心根管は35%の可能性で合流していることが多い。

これを高いと考えるか?低いと考えるか?に関しては、以前に記事にしたことがあるのでそちらを参照いただきたい。

ヒントはイチローの打率である。

根管形成のコツの公開②〜下顎第1・第2大臼歯→ML,MBの解剖学的特徴と形成方法について

さて、MBは偏心撮影するとその様子が窺える。

恐らく合流根管だろう。

しかし前医はそんなことを考えもしなかっただろう。

それがこの根管充填を偏心撮影で見れば分かることだ。

したがって、CBCTが必要な理由が見当たらない。

ここを修正することができれば?勝負に勝てる可能性があるかもしれない。

歯内療法学的診断は以下になる。

#30

Pulp Dx: Previously Treated

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Re-RCT

ということで治療計画に同意されて、再根管治療が行われた。(2017.9.20)

以下の様な治療内容になった。

ポイント試適を行なった(PAは以下になる)

Gutta Percha Pointが近心根尖部より若干はみ出ている様に見える。

根充時に先端を1mm切断し根管充填を行なった。

試適が怪しかったため、根管充填後に再度PAを撮影した。

M根はGutta Percha Pointがそれでも若干根尖部から溢出したかもしれない。

D根は理想的に行えた様だ。

その後、Fiber Postを用いて支台築造を行なった。

例によって私は再根管治療を1回で終了させた。

1回法でも2回法でも予後に差がないことから、多くの米国歯内療法専門医は1回で根管治療を終了させる。

私もUSCでその様な教育を受けてきた。

さてここから経過観察である。

ただし、過去の記事から分かる様に治療に反応する(根尖病変に変化が出る)には時間がかかる。

再根管治療の予後はいつ判断できる??〜#13 Re-RCT 治療終了後 2年経過

治療終了後、半年程度経過しないと根尖病変に変化が見られないことがわかっている。

圧痛が消えたと申告があったため最終補綴をかかりつけ医で行い、治療終了時から半年後にRecallした(2018.3.19)

主訴である根尖部の圧痛は改善された。

したがってかかりつけ医に最終補綴を行なっていただける様に依頼した。

最終補越が装着されて経過観察を行なった。

再根管治療終了から1年が経過している。(2018.10.25)

根尖部はHealingしている様に見える。

ただHealedとはいえない。

治癒には4年の時間を有する。

ということでまだ経過を見る必要があると言う話をしていたが、わたしの脳が出血し、逆に経過を見られる羽目になりこの患者さんの経過を見ることができなくなってしまった…

が、患者さんに連絡すると喜んでリコールで来院された。

治療してから5年が経過している。

患者さんの主訴はない。

快適に過ごせていると言う。

歯内療法学的検査は全て陰性であった。

わたしがあの時再根管治療してから5年の時間が経過していた。(2022.2.4)

近心根間の合流は再現されている。

根尖病変もかなり縮小している様だ。

ただ、まだM根の根尖部にはうっすらと透過像が見える。

かかりつけ医がCBCTを撮影してくれた。(2022.2.4)

M根

初診時にはM根の根尖部には根尖病変が見られた。

が、時間が経過し根尖部頬側は皮質骨で覆われる様になった。

その結果、症状がないのでまだ今後の変化があればここはこの状況より悪くなるので続けて見守る必要がある。

(ここが急発すれば外科の可能性がある。)

D根

D根には初診時から引き続いて根尖病変は見られない。

問題ない様である。

やはり問題はない様である。

ということで、近心根尖部は今後どうなるかわからないが遠心根には問題はないので経過観察を持続することとなった。

ここまで5年の時間が流れているが改めてもっと時間が経てばもっと良くなっていく傾向にあるかもしれないし、今より悪くなっていくかもしれない。

そのためにはやはりメンテナンスが欠かせないだろう。

定期的なメンテナンスを現在は行っているそうなので問題はないと思われる。

ということで、5年ぶりのリコールが終了した。

以下、患者さんの感想。


先生、治療してもらった歯は全く問題ありません。

本当にありがとうございました。

何か今後あれば、ご報告致しますので今後とも引き続きよろしくお願いいたします。

体を大切にされてください。私に何かあった時に誰がこの歯を治療するんですか。。。

本当によろしくお願いいたします。


ということでRe-RCT5年後の経過観察は終了した。

次回はまた来年の2月にいらっしゃる予定である。

今後の患者さんの人生に幸あれ、と思わずにはいられないリコールであった。