遠方(関東某県)からの患者さんの治療。
主訴は複数ある。
①根尖病巣がなくなってほしい。正しい治療がしたい。
②拍動痛が何もしていない時や噛み合わせた時に起こることがある。(上の歯と接触しないように患歯は削られているので噛んだ時に痛みがあるのは患歯の前の歯が押して刺激になっている??)
③噛んだ時や噛んで少ししたあとムズムズして痛痒いような違和感がある。
④神経が残っていると言われてそのままでいいのか?抜く必要があるのか?抜いた方がいいなら抜きたい。
⑤歯を軽く指で叩くと患歯の内側の部分が痛む。
どうだろうか?
遠方(関東)からの患者さんで、わざわざ博多のオフィスまで訪ねて来られたが、アタオカが来た!とあなたは騒ぐだろうか?
私は騒がない。
私には苦手な患者層というのは基本的に昔からいない。
(が、遠い昔、口喧嘩したことはある。GPの時、補綴治療の予定変更でだ。)
そしてこれだけ主訴がはっきりしているのであれば検査で原因が特定できそうだ。
まず主訴に対して返事をした。
①根尖病巣がなくなってほしい。正しい治療がしたい。
→正しい(とこの業界では考えられている)治療しかうちではしませんと伝えた。
②拍動痛が何もしていない時や噛み合わせた時に起こることがある。(上の歯と接触しないように患歯は削られているので噛んだ時に痛みがあるのは患歯の前の歯が押して刺激になっている??)
→隣の歯が刺激を加えることはないと伝えた。アナコレーシスも否定されているのでこういうことはありえない、と伝えた。
③噛んだ時や噛んで少ししたあとムズムズして痛痒いような違和感がある。
→根管治療をすれば条件はあるが改善する可能性が高い、と伝えた。
④神経が残っていると言われてそのままでいいのか?抜く必要があるのか?抜いた方がいいなら抜きたい。
→神経を全て取ることはできない、と伝えた。こういう時に便利なのが過去の記事である。以下の記事を患者さんには見せて説明した。
⑤歯を軽く指で叩くと患歯の内側の部分が痛む。
→これも適切な治療を行えば改善する見込みが高いと伝えた。
ちなみに治療歴は、
①居住地(関東某県)の近くの歯科医院で抜髄治療を受けて、ラバーダムも使用されなかったという。
②その後、東京の自由診療の歯科医院に通い、ここではラバーダムを使用されたそうだ。
治療も①の時代では何もしなかったそうだが、
②の歯科医院ではラバーダム下で根管治療をNi-Ti Fileでされたそうだ。
が、施術者は歯内療法の関係者ではなく、GPだ。
色々ある自由診療のメニューの中に歯内療法があるという立ち位置で治療をしている人である。
エンドの専門家ではない。
エンドが得意なGPである。
その先生からは、CBCTのデータももらえなかったそうだ。
訴えられる?とでも思ったのだろうか?
また痛みが取れないのでペインクリニックを紹介されたらしい。
ご自身の処置にかなり自信があるようだ。
そもそも非歯原性疼痛は全てのエンドの痛みの中の3%程度である。
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_719.html
今や消費税よりも低い。
なのでまず、近隣の歯科医院でCBCTを撮影してもらった。
それから初診の検査である。
そんなことして歯科医院が回るのか?
と言えば、
そういう行動をとったとしてもうちは痛くも痒くもない。
なぜか?
1日、1〜2人しか診療していないからである。
しかも今日は午後の患者さんが都合でキャンセルになった。
つまり、午後まで時間が自由に使える、これは歯科医療にとっては大きい。
この点からも
歯科治療は自由診療でしかできない
ことがわかる。
税金にすがるのはもうやめましょう。
ということでCBCT撮影の後、検査が行われた。
歯内療法学的検査(2023.2.14)
#18 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#19 Cold+3/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
重い?主訴の割にはあまり反応が出てなかった。
しかし、患者さんによく話を聞くと痛みはあっても3/10程度であるという。
つまり実はそこまで悩んでいることではない?のではないか、と思われた。
PA(2023.2.14)
既に根管形成がなされているようだ。
これは逆に頭が痛い。
根管形成の修正が効かない可能性がるからだ。
CBCT(2023.2.14)
樋状根である。
既に形成もなされている。
根尖病変も鎮座している。
MBは既に形成されているような印象を与える画である。
が、MLは何もしていないようだ。
Dは残念ながらトランスポーテーションを起こしているような根管形成になっているように見える。
が、本当にそうかどうか?はわからない。
実際やってみないと何とも言えない。
ここで画像を見ると以下の状況に目がいった。
#16(左上第3大臼歯)を見てほしい。
歯髄に近接する大きな虫歯がある。
もう既に露髄しているだろう。
もはやこれは、Asymptomatic irreversible pulpitisと言っていいだろう。
であれば…
関連痛の可能性も考慮しなくてはならないだろう。
が、患者さんは既にこの事実に気づいていた。
他院で(東京で)指摘されていたという。
なら…
さっさと抜歯すればいいじゃないか?
と思うのは私だけだろうか?
それを痛みの専門医に紹介するという…
歯科医療はこれではいつまで経っても尊敬されることはないだろう。
詳細は、Advanced Course 2023でお話しします。
歯内療法学的診断(2023.2.14)
#18
Pulp Dx: Previously initiated therapy
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: RCT
推奨される治療は根管治療である。
成功率は
テクニカルエラーがなければ90%程度あるだろう。
が、根尖がぶっ壊れていたら…40%程度しかないだろう。
尖通しないければ60%か。
40%か60%か90%か?それは術前には予想できない。例え高解像度のCBCTをあなたが買ってもだ。
勿論、レントゲン業者はあなたにいいことばかり言ってくるだろう。
でも何もそれは歯内療法のヘルプにはならないのである。
彼らの目的はあなたに高価な商品を買わせることにある。
あなたの診療の質が良くなろうと悪くなろうとそんなことは彼らには何の興味も無い。
それはそうだ。
彼らの生活にあなたの診療の質など無関係だからだ。
もういい加減に気づいた方がいいだろう。
あなたを守るのはあなた自身なのだから。
そんな状況でなぜ保険診療に拘るのだろうか?
無理なものを無理を承知でやるほど馬鹿な医療行為はない。
ということで話を戻す。
(再)根管治療がスタートした。
#18 (再)根管治療(2023.2.14)
MBはK20で穿通した。
ということはあまり拡大できないということがわかる。
最終的に#20⇨#50であった。
さあどれだけ拡大されたであろうか?
計算の方法はBasic Course 2023で説明する。
#18 根管充填後PA(2023.2.14)
近心は根管充填材がOver extensionしたかもしれない。
Over fillingならまだいいのだが、こればかりは神様でないのでわからない。
それなら最初からWL-Apical Foramen-0.5にするなよ!と言われそうだがそこはプライドの問題だ。
しかもBC sealerなのでMTA根充である。
あなたの好きなMTA根充である(笑)。
MTAで根充すれば予後がいいのであれば?問題ないだろう。
しかしそんなことより重要なのは上記の動画であるような可及的な防湿処置であることは論をまたない。
またかつて飛び出たGutta Perchaをとってほしい!という要求に私はどう答えただろうか?
以下の記事を参考にしていただきたい。
さて。
最後に患者さんは私に質問してきた。
”これで根の先の病巣は全部消えますかね?”
私は患者さんに言葉の間違いを教えてあげた。
このものの言いようは、
患者さんは根尖病巣と思っているからだ。
今回の原因は根尖病巣にあり歯にはないんだ、というやつである。
根尖性歯周炎の原因は根管の中にいるバクテリアで根尖病変に存在する細菌ではないのである。
勿論、Sinus tractがあれば別だが、この患者さんにはない。
細かいことだがこれも患者教育だ。
ということで補綴治療は私の知り合いで、都内で開業する米国補綴治療専門医に紹介した。
あとはそこの歯科医院でプロビジョナルレストレーションを装着し半年後に経過を見る。
その模様はまたお伝えしよう。
それまで、少々お待ちください。