紹介患者さんの治療。
初診は2022.6.10であった。
主訴は
以前他院で治療した右下奥歯の不調
である。
患歯は他院で随分前に根管治療していると言う。
ラバーダムはもちろん使用していないそうだ。
歯内療法学的検査(2022.6.10)
#30 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#31 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(+), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus Tract(+)
Sinus tract部分を押すと圧痛があると言う。
主訴を再現できている。
あとは、
”どう言う治療をするか?”
だ。
再治療か?外科治療か?どちらかである。
それはPAなどをみてみないとわからない。
PA(2022.6.10)
根尖部の形成はあまりなされていないようだ。
作業長の位置も判然としない。
そして、近心根を取り囲むように病変がある。このことは歯根破折を考えさせる。
が、歯周ポケットは正常である。
歯牙が破折しているかどうか?は、何度も言うようにその歯牙を直接見ないとわからない。
想像で治療はできないのである。
CBCT(2022.6.10)
MB
尖通していないのか根尖部はまだ大きく拡大できそうだ。
再根管治療の余地がありそうである。
ML
MLにはMBよりも大きな病変が見える。
そしてここも根尖部まで形成がなされていない。
再治療で改善できる余地はあるだろう。
D
D根の遠心部分にも根尖病変がある。
D根も根切の対応になる。
断層は以下である。
歯内療法学的診断(2022.6.10)
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Chronic apical abscess
Recommended Tx: Re-RCT
推奨される治療は再根管治療とした。
理由は根尖部が未形成だからである。
また、患者さんがIntentional Replantationに乗り気でないのもこの治療を決定させた理由である。
しかし、そうは言ってもSinus tractがある。
この事実は外科治療に移行せざるを得ないかもしれない。
色々な複合的な要素が考えられるが、要は治療を誠実に行えば良いのだ。
ということでまずは、再根管治療に移行した。
それがうまくいかなければ、Intentional Replantationである。
#31 Re-RCT後 PA(2022.7.7)
再治療を行ったが、
MBもMLもDも穿通しなかった。
しかしながら、60%の可能性で成功するかもしれない。
ここから時間を置くことになった。
#31 Re-RCT 7M later recall(2023.2.18)
以前の治療から半年経過した。
患者さんに問診すると、
右下の奥歯では強く噛めない。腫れていると感じる時がある
と言われた。
以前の再根管治療が奏功していない証左だ。
歯内療法学的検査(2023.2.18)
#30 Cold+3/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#31 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(+), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)
#18 Cold+4/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#31は術前よりも状況が悪くなっている。
PA(2023.2.18)
これは再根管治療ではマネージメントできなかった私の負けである。
と言うことで、Intentional Replantationへ移行することになった。
☆これ以降、Intentional Replantationの動画が出てきます。気分を害する方は視聴をSkipしてください。
#31 Intentional Replantation(2023.3.9)
脱臼させて抜歯を試みたが、うまくいかなかった。
そこで作戦を変更した。
この歯はどうすれば抜けるだろうか?
答えは、
頬舌的に振るしかない(だろう)
と言うことである。
そして病変がある近心根も遠心根も切断し逆根管形成+逆根管充填する必要がある。
脱臼を諦めた私は頬舌的に歯牙を振ることにした。
すると予想通り脱臼できた。
そのまま鉗子で頬舌的に揺さぶると脱臼→抜歯ができた。
要した時間は4分である。
抜歯窩をCheckした。忘れ物は特にはない。
忘れ物があると根尖病変は治癒しないのできちんと精査する必要がある。
この後は口腔外の作業である。
これには、ほとんど時間はかからない。
近心根、遠心根を根切した。
その後、メチレンブルーで染め出し逆根管形成を行った。
逆根管充填した。
PAで確認した。
問題ないと思われる。
抜歯した歯を抜歯窩へ戻した。
ガーゼを咬合してもらった後に、PAを撮影しようとした時だ。
”この歯は先生、スポッと抜けないんですか?”
と質問された。
どうだろうか?
抜けるわけがない。
なぜか?
アンダーカットを超えて抜けているのである。
そして、アンダーカットを飛び越して抜歯窩へ収まっているのである。
抜けるはずがない。
が、こう言う質問も時には多くの患者さんの疑問に役立つ?のかもしれない。
最後にPAを撮影した。
ということでこの日の治療は終了した。
次回は1ヶ月後である。
再度、その際の模様を皆さんにご報告しよう。
それまで少々お待ちください。