以前の歯科医院での治療。

患者さんは50代女性。

他院からの紹介の患者であった。

主訴は長い。以下のようになる。


数十年前に虫歯のため歯の神経を取った。(左下奥歯)そこが痛み、現在○×市にある△□歯科に通院中。

その歯科医院でも色々してもらったが、膿が溜まっているとのこと。

毎日うずくように痛く、ものを食べたり上の歯と噛み合わせたりすると痛い。

現在も痛くて噛めない。(7/10程度)

昔はこれがもっとひどかった(10/10)とのこと。


紹介状もついていた。

そこには以下のように治療を以下のように行ったという記録が書いてあった。


2014.10.30 #18の感染根管治療開始 M,Dしか見つけられず。2根管と思い治療開始。

2014.11.4 EMR, 根管形成・拡大

2014.11.13 根管充填。その後、支台築造・クラウン形成まで行ったがクラウン装着時に症状あり。予後不良と判断し、意図的再植を計画。

2014.12.20 意図的再植(根尖部切除。抜歯窩掻爬)

2015.3.12 Metal Crown set

2016.7.20 同部に鈍痛あり。再発を疑う。CT撮影。MLの見落としに気づく。が、MLを見つけられない。

2016.9.5 症状が落ち着いてきたとのことで再度支台築造。Tekで経過観察する。

2017.2.10 痛みが出る。再度根管治療にトライ。ここでML発見。作業長13.0mm。#30.06まで拡大形成する。(Patency確保済み)

ところが、なかなか痛みが取れずフレアアップを起こし排膿を繰り返している。洗浄。仮封。投薬を繰り返すが症状改善せず現在に至る。既に難治化していると思われるが、これ以上の難治化を防ぐために2017.3.15にキャビトン仮封している。


患者に痛みがあったため、再治療を行った。

しかし、根管が見つからない。

そこでマネージメントをしていたがこれ以上何ができるというのか?というのが紹介医師の心の内だ。

このようにあるいはこのように丁寧に紹介されなくても、私は紹介医のことを責めない。

責めても仕方がない。

なぜか?

難しい治療を自分で請け負ってやっているからだ。

誰にも責任はない。

少なくとも臨床家には責任があるとは言えない。

なぜか?

こういう治療は難しいので、専門医に紹介しましょうという文化が日本にはないからだ。

なのでこの先生もどうしようもないだろう。

今後はこのような文化を作っていくことが望まれるが、まあそれは日本では無理だろう。

ということで当歯科医院で検査を行った。

#18 Cold NR/20, Perc.(++), Palp.(-), BT(++), Perio probe(Lのみ7mm), Mobility(WNL)

#19 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#20 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

PAは以下になる。

Pulp Dx:Previously treated

Periapical Dx:Symptomatic apical periodontitis

Recommended TX:Intentional replantation


紹介状の説明文にもあったように

確かにMLは形成はしてあるようだが、根管充填をしていない。

なぜか?

患者に痛みがあったから根管充填していないのだ。

また、根切はしてあるが逆根管形成・逆根管充填をしていない。

歯根端切除だけ行い、逆根管充填をしない場合のApicoectomyの予後は極めて悪いことは近年の論文で示されている。

Christiansen 2009 Randomized clinical trial of root-end resection followed by root-end filling with mineral trioxide aggregate or smoothing of the orthograde gutta-percha root filling–1-year follow-up

歯根端切除してMTAで逆根充した場合とカットしてそのままにした場合の予後の比較を行っている。

それによれば結果は以下になる。

MTAを使用して逆根充した場合、1年予後は96%であった。

に対して、

歯根端切除してそのまま(何も充填しない)場合、1年予後は52%しかない。

ここから言えることは、

Apicoectomyは根切しただけではだめだということだ。

根切でバクテリアは減るが、ガッタパーチャポイントでは細菌がリークするということを示している。

したがって、

MTAセメントで細菌の侵入を抑えないといけない。

したがって、上記の症例では切断しているだけなので痛みが復活している。

逆根管形成と逆根管充填が必要だったのだ。

また舌側に歯周ポケットが7mmもある。

しかも樋状根である。

切断の量は制限される。

ということで、治療のリスクと予後、治療費そして何よりも痛みがあるのと、遠方(九州の遠方)から来られているので、初診の日と同日に意図的再植を行った。

2017.4.7のことである。(MLの根管充填は紹介医が行うということであったので私はそこは何もしていない。)

処置から約3ヶ月後。(2017.7.19)痛みは消失していた。

また歯牙の動揺もない。

アンキローシスを疑わせるような打診時の金属音もなかった。(この時点でMLは紹介元により根管充填をしてもらっている)

処置から7ヶ月後。(2018.1.17)

最終補綴物も装着されていた。

痛みや歯牙の動揺、アンキローシス所見もない。

ここから3ヶ月後。またしても経過を見せに来てくれた。(2018.4.18。初診時から1年経過)

#20には根尖病変ができていたが、#18の治療にお金がかかったので今はお金がないから将来やると言われた。

そして、2019.4.10に経過観察に来るはずだったが、私が倒れたので経過を見れないでいる。

この歯がまだ残っていればいいが、どうだろうか?

もしまたお会いできることがあれば、

自分の目で、この歯がどうなったのか?をきちんと確かめてみたい

と思うそういう患者さんであった。